「うわーーー!すっごい!」

ツナは興奮気味に声を上げた。
目の前に広がる白い砂浜と、青い海。
自分たち以外の人間はおらず、完全なる貸しきり状態だ。

「リボーン、よくこんなとこ借りられたな!」
「感謝しろよ」

ニッと笑うと、リボーンは後ろの二人に顔を向ける。

「そこの別荘も借りてあるから、おめーたち着替えて来い」

リボーンが指差した先には、しゃれたペンション風の別荘がある。
獄寺と雲雀は揃ってそちらへと歩いていった。




その後ろ姿を見やり、ツナはふぅと息をつく。

「あーあ、山本に内緒でなんてなんか気が引けるなぁ」

ツナから見ると、山本が獄寺を特別に思っているのは明らかなのだ。
山本の気持ちを知っていながら獄寺が女であることを秘密にしているだけでも後ろめたいのに、自分だけ獄寺の水着姿を拝むだなんて。

「ほら、あいつらが戻ってくる前にお前もさっさと着替えろ」
「ってここでかよ!」
「男だろ、つべこべゆーな」
「ったくもう…」

ぶつくさ言いながら、ツナは岩陰に隠れた。
人の姿はないとは言え、いつ獄寺と雲雀が戻ってくるかわからない。









「お待たせ」

ようやく待って聞こえた声に、ビーチで待っていたツナとリボーンは顔を向ける。
雲雀がこちらへと歩いてくるところだった。赤いワンピースタイプの水着が良く似合っている。
スレンダーな体つきに、すらりとした足が目に眩しかった。

「あれ?獄寺くんは一緒じゃないんですか?」

直視できずに目線を逸らしながらツナが問いかけると、雲雀は呆れ顔で首を後ろへ曲げる。

「隠れたって無駄だと思うよ、隼人」
「だ、だってよ、こんなカッコ…!ぜってー似合ってねーし…!」

雲雀の背中からおずおずと顔を見せたのは獄寺その人で。
恥ずかしがるように隠れたまま、なかなかそこから動こうとしない。

雲雀はふぅと息をつき。

「うっとうしい」

そう言うと、獄寺の体を自分の後ろから蹴りだした。

「おわっ!!」

獄寺は手足をバタバタさせながら雲雀の後ろから飛び出す。
体勢を立て直した獄寺は、自分を見るツナの視線に気がついて顔を赤く染めた。

獄寺の水着は水色のビキニタイプだった。
それはいいのだが……ビキニ部分からこぼれんばかりのたわわな乳房に、ツナの目が釘付けになる。
それはもう、よくこれでいつも隠せているものだと感心するほどの大きさだった。

「まったく……買いに行った時はずいぶん気に入った様子だったのに、いざ着た途端似合ってないんじゃないかって怖気づいて。沢田から言ってやってよ、似合ってるって」
「へ?え、えと…あのっ……」
「おお。似合ってるぞ、獄寺、ヒバリ」
「ありがと、赤ん坊」
「あ、ありがとーございます…」

ツナが言おうとしていたセリフは、あっさりとリボーンに持っていかれた。







「10代目ー!早く早くーーー!!」

先ほどまでの恥らった様子はドコへやら、獄寺は胸まで海水に浸かり、ツナへと元気に手を振ってくる。

「今行くよー!」

浮き輪を手にツナが海に入っていこうとすると、「ねえ」と海に入る気の無いらしい雲雀が呼び止めた。

「まさかとは思うけど、どさくさ紛れに隼人に妙なことしないでよね?」
「しっ、しませんよ、そんな!」

慌てて言ってから、オレには京子ちゃんがいるんだし!とツナは心の中で続けた。
それに、女の子だと知った時は確かに戸惑ったし、獄寺は美人で巨乳で男なら誰だって興味を惹かれるに違いないのだが、親友の好きな子だと思うだけでそんな気はまったく失せてしまうのだ。

「ならいいけど」

ふいっと顔を逸らした雲雀に、獄寺と雲雀には女の子同士の友情が芽生えているんだなぁと少し微笑ましい気持ちになったツナだった。












一方、その頃。

「ビアンキ姉さん、どこ行くんすか?」
「黙ってついてらっしゃい、山本武」

キーコ、キーコ、炎天下の中並んで自転車をこぐ山本とビアンキ。
ビアンキの前かごにはイーピン、山本の前かごにはランボが入っている。

「ガハハハハ!海が見えてきたんだもんね!」
「イーピン、およぐ!」
「おっ、ホントだ!綺麗だな〜!」
「まったく、リボーンたら私を置いて海水浴だなんて…」

悔しそうに唇を噛み、ビアンキはその人気の無い砂浜めがけて軌道を変えた。














「10代目ー!そっちいきましたよー!」

ポーーーン、と頭上高く飛んでくるビーチボール。
だが、ビーチボールはツナの上を通り越して、海の反対側へと転がっていってしまった。

「あっ、オレ取ってくる!」
「いーっすよ、オレ行ってきます!」

ツナが走り出すより早く、獄寺がツナの横をすり抜けていった。






「あったあった!」

砂の上で止まっているビーチボールを見つけ、獄寺はかがんでそれに手を伸ばす。
と、その上に人型の影が差した。
他に人はいないはずなのに―――と顔を上げた獄寺の目に飛び込んできたのは。

「ごく、でら…?」

Tシャツにハーフパンツ、サンダル姿で目の前に立っているのは、獄寺にとって間違えようのない相手、山本だった。
それと、その背中におぶさっているランボ。

「な、なんで…お前がここに…」

慌てて立ち上がり、後ろに後ずさる獄寺。
自分の格好を思い出し慌てて隠そうとするけれども、この露出度では隠すのも誤魔化すのも無理だった。

山本は明らかに動揺した様子で、獄寺に一歩歩み寄る。
そうして、その唇を震わせた。

「獄寺…お前、おん…」


山本にばれちまった!よりによって山本に―――!


獄寺がパニックに陥っていると、ひょい、といつの間にかやって来たリボーンが山本の肩に飛び乗った。

「これは夢だぞ」
「あ、なーんだ、夢かー。それで獄寺女の子なのなー」



納得した。


そこでまさかの山本節炸裂。
いや天然にも程があんだろお前、と獄寺は心の中で突っ込みを入れる。

山本はと言えば、さらに獄寺に近寄って、その体を上から下まで眺め回した。

「獄寺すっげースタイルいーのなー」
「ガハハハハ!おっぱいでっかいんだもんね!」
「んなっ…!あ、あんま見んじゃねーよ、てめぇら!!」

獄寺がどつくと、山本はどつかれた腕をさすりながら。

「ははは、夢なのにリアルなのなー」

どうやらすっかり夢だと信じ込んでいるらしい。
まあ、獄寺のことを男だと思っているのだからそれも仕方ないのかもしれない。




「リボーン!」

その時、獄寺にとって最も聞きたくない人間の声が聞こえた。
山本の後方から顔を輝かせて駆けてくるのは、紛れも無く彼女の姉ビアンキだった。

「うげっ、アネキ!」

遠目にではあるが直視してしまってぐらりとよろめいた獄寺の腕を、山本が掴む。

「逃げるぞ、獄寺!」
「え!?おわっ!!」

山本に引っ張られるようにして、獄寺は砂浜を駆け出した。









ビーチの端の方まで走ってきた二人は、息を切らしてそこで立ち止まる。

「…っはーーー、獄寺、だいじょーぶだったか?ちょっと見ちまっただろ?」
「ゼェ…ゼェ……あ、ああ、なんとか……」

うな垂れていた獄寺は、山本の熱い視線に気がついて胸の辺りを腕でかばうように隠す。

「見んなっつってんだろ、このスケベ!」
「わりーわりー、つい」
「…お前、巨乳好きだもんな」

クラスの男子との会話からも、部屋にある雑誌からも、うすうす勘付いてはいた。
そのおかげで、サラシを巻くのが苦しくて嫌いだったこの胸を、初めて良かったと思えたのも事実。

もちろん嫌いじゃねーのなあっ!で、でもそれだけじゃねーぜ!?獄寺がすっげ可愛いから見ちまうんだって!」
「かっ、かわ……!」

耳まで赤く染めた獄寺を、山本は瞳を細めて見つめる。

「……夢じゃなかったら、いーのにな」
「あ?なんか言ったか?」
「いんや、なんにも!それより泳ごうぜ、獄寺!」
「って、お前、水着は…」
「これでじゅーぶん!」

そう言うと、山本はTシャツとサンダルを脱ぎ捨てて、ハーフパンツ姿でバシャバシャと海に入っていった。










「ねえ、どういうこと?なんで山本がいるわけ?」

双眼鏡で向こう側を眺めていた雲雀は、ビーチチェアの上で細い足を組み替えた。

「え?あれ!?なんで、どーして獄寺くんと!!?」

目を凝らしてそちらを眺めていたツナも、驚いて声を上げる。

「ビアンキが連れてきちまったらしーな」
「え?あっ…ビアンキ!ランボにイーピンまで!」

ぞろぞろと現れた面々に、ツナは目を丸くした。

「リボーンったら、私抜きで海水浴なんて酷いじゃない」

そう言って、ビアンキはリボーンに擦り寄る。

「でもなんで山本を連れてきちゃったんだよー!獄寺くんのことがバレちゃったじゃんか!」
「大丈夫だ。夢だと思い込んでるからな」
「はあ!?いくら山本でもそんなベタな…」

「甘いわね、ツナ。あの山本武よ
「そーだ、あの山本だぞ

自信たっぷりに言い切った二人の態度に、ああ、そーかもね…と思わず自分も納得したツナだった。




「でも良かった、楽しそうで」

海辺ではしゃぐ二人を眺め、ツナは目を細める。
二人の姿はどう見てもお似合いの恋人同士で、なんだか少し妬けるけれど。

「山本武……隼人に少しでも触ろうものなら……」

ブショアアア、とビアンキの手の上で紫の煙を発するカキ氷

「って山本相手にポイズンクッキングするなよ!!」

「隼人を守るためなら多少の犠牲は仕方ないわ」
同感だね。僕も手伝うよ」
「ヒバリさんまで!トンファーは仕舞ってくださいー!」

あーもーなんでオレの周りには物騒な女の人ばっかなんだ!!と頭を抱えるツナだった。

 


山本節炸裂。
海編、まだ続きます。別荘お泊りにしようかと思ったけど長くなりそうなので日帰りで。
ディーノがのけ者でスイマセン。雲雀が隼人好きすぎてスイマセン。
(2007.9.6UP)

 

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