「あー、なんか喉渇いたな」
「そーだな。戻るか」
獄寺と山本は浜に戻り、ツナたちのいるところへと向かう。
と、砂浜に足を取られて獄寺の体がぐらついた。
「っと、大丈夫か?」
山本のたくましい腕が、素早く獄寺の腰を支える。
「あ、ああ、わりぃ…」
獄寺が赤くなっていると、山本が「ん」と獄寺に向かって肘を突き出した。
「?」
「腕組もうぜ!」
「なっ…!んな恥ずかしいことできっか!」
「だって獄寺危なっかしーんだもんな。いーじゃん、夢なんだし」
呑気にいうその姿に獄寺は小さく息をつき、苦笑した。
「だな。夢なんだし…いーか…」
獄寺は山本の腕にするりと自分の腕を絡めた。
そうして、そのままぴたりと体を寄せる。
―――なんだよコレ、まるでフツーの恋人同士みてーじゃねえか…。
どくどくと、自身の心臓の音がうるさい。
獄寺は知らず山本にしがみつく腕に力を込めた。
と、頭の上の方から山本の声。
「なんかさー、こーしてると恋人同士みたいじゃね?」
「な…なに言ってんだバカ!!」
心中を見透かされたようで、思わず獄寺の声が上ずった。
「バカはねーじゃん。オレ、獄寺とこーして歩けてすげー嬉しいんだぜ?」
「ケッ、そりゃー今のオレが女だからだろ。女で乳さえでかけりゃなんでもいーんじゃねーのかテメーは」
素直になれず、つい悪態をつく。
と、山本がぴたりと足を止めた。
「山本?」
「オレ、なんでもいーとか思ってねーから」
恐いほど真剣な瞳に見つめられ、獄寺は息を呑んだ。
「獄寺、オレは…―――」
「わあああっ!!二人とも逃げてーーー!!!」
山本の言葉の続きを遮るように響き渡ったのは、ツナの悲鳴。
声のした方に顔を向けた二人の目に飛び込んできたのは、イーピンを抱え上げてこちらへ走ってくるツナの姿だった。
イーピンの額には箇子が現れており、すでに三箇しか残っていない。
「んなあっ!?」
逃げてと言いながらなぜこっちに向かってくるのかと言う気もするが、この状況で獄寺が敬愛する10代目を見捨てて逃げ出せるはずもない。
「10代目!こっちに投げてください!」
「だ、ダメだよ、危ないよーーー!!」
そうこうしている間にもカウントダウンは続き、あと二箇。
「貸してください!」
獄寺はツナの手からイーピンをもぎ取ると、山本へと放った。
「山本!!海に投げろ!!!」
「りょーかいッ!」
投球フォームに入った山本が、イーピンの頭を白球代わりに握りしめて振りかぶる。
「しょっ!」
ゴウッ!と風を切って、イーピンの体は遠く海上へと飛んでいき―――そうして、海の上でピカリと光った。
激しい爆風に、三人は目を閉じて足を踏ん張る。
ようやく獄寺が瞳を開いた時、山本が砂浜の上に倒れていた。
「山本!?」
慌てて駆け寄り山本の体を抱き起こす。
ところが、聞こえてきたのは穏やかな寝息だった。
「麻酔を撃っただけだ。心配いらねーぞ」
「リボーンさん!」
銃を構えたリボーンが、いつの間にかそこに立っていた。
「今のうちに着替えてこい。コイツが夢だと思ってるうちにな」
「あ、は、はいっ!」
別荘に戻ると、雲雀が先に戻り洋服に着替えているところだった。
「やあ。楽しそうだったね」
「…!見てたのかよ」
カアッ、と獄寺の顔が赤くなる。
「見ていて少し妬けたよ」
「なーに言ってんだ。跳ね馬に言いつけるぞ」
「ディーノと隼人は別だよ。わかるでしょ?」
そう言って、雲雀は獄寺に柔らかく笑いかけた。
雲雀のこんな顔を見るのは初めてで、女同士とわかっていても思わずどきりとする。
「そういえば、さっきの小さな子可愛かったな」
「へ?」
小さな子と言われて、まさか、と獄寺の頭にイーピンの姿が浮かんだ。
ランボもいるけれどアレは可愛くない。
そういえば、イーピンは雲雀に惚れている。
当然、男と思っていたはずで、雲雀が女だと知ってショックを受けたと思われるが―――。
「僕を見て赤くなりながら『お姉さま』…だって。そんなこと言われたの初めてだけど悪くないね。うん」
そうきたか。
「……なるほど…さっきの箇子時限超爆はそれが原因か…」
その場にへたり込み、獄寺はがっくりとうな垂れた。
乙女心をたぶらかす女、雲雀。
どうやら自分も少々たぶらかされつつあるらしい―――と思いながら、イーピンの行く末を案じる獄寺だった。
むりやり海編終了。
ほんとはポロリとかシャワーでバッタリとかな展開も考えたけど(え)
雲雀♀はお姉さまだと思う。
(2007.9.9UP)
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