ちょうだい?

 

それは、うちの店でクリスマス会を行った時のこと。
パーティーが終わりツナたちが帰ってしまうと、オレは和室にいるそいつの様子を見に行った。

「獄寺ー、起きたかー?」

そう呼びかけながら、ひょこりと覗き込む。
酔いつぶれて布団に運ばれていたはずの獄寺は、体を起こしてそこにいる相手にしがみついていた。

「……何してんだ?」
「おう、武。獄寺くんが放してくんなくてな」

と、オヤジは苦笑しながらこちらに顔を向けた。
その体は、布団の上でがっちりと獄寺に抱きしめられている。
獄寺はといえば固く目をつぶり、どうも様子が普通じゃない。

寝ぼけているのか、酔っているのか。
とりあえず、獄寺を好きなオレとしては面白くない状況だった。

「獄寺、それじゃオヤジが動けねーから放せって」

と、獄寺の腕に手をかける。
だが、獄寺はいやいやと首を振っていっそう強くしがみついた。

「無理に放さなくてもいーだろ。武、わりぃが先に片付けしといてくれるか?」
「けど……」

オレが面白くなさげに膨れていると、オヤジは呑気に笑いをこぼす。

「なんだ、ひょっとして父ちゃんを取られたみたいで悔しいのか?まだまだガキだなぁ、おめぇも」

どうもオヤジは勘違いをしている。
膨れているのはその逆で、獄寺を取られて悔しいのだ。
それに、オヤジが妙に嬉しそうなのも気に食わなかった。

だいたい獄寺、オレの気持ち知ってるくせにこれはないんじゃねえ?

なんて眠ったままの獄寺を恨めしい気持ちで睨んでいると、獄寺の口元が動いた。

「オヤジさん…―――」

って呼ぶのもオヤジのことかよ!
そこでせめてオレの名前呼んでくれたって……。

「………が欲しい……」
「ん?」

オヤジが首をひねって、獄寺を見下ろす。
オレももにょもにょと呟くような獄寺の言葉を聞き取ろうと、身をかがめて顔を近づけた。

「ああ、そーいや!」

そこでオヤジが思い出したように声を上げる。

「獄寺くんから答え聞いてなかったなあ」
「答え?なんの?」
「クリスマスプレゼントに何が欲しいかって聞いたんだけどよ、遠慮してんのか言ってくれなかったんだ」

……なんでオヤジが獄寺にクリスマスプレゼント?

オレが不思議そうに眉をひそめていると、オヤジがこっちに顔を向けた。

「獄寺くん一人暮らしだし、親御さんはイタリアなんだろ?そんなら親御さんの代わりにクリスマスプレゼントくらいやってもいーんじゃねえかと思ってな」

だからなんでそんなに嬉しそうなんだ、オヤジ。
オレだって獄寺にプレゼントやりたい。
ていうかオヤジ、オレにはプレゼント何がいいかなんて聞かなかったじゃん!
オレが欲しいの野球のグローブだったから聞かなくてもわかってたんだろーけどさ。

「よしよし、何が欲しいんだい?」

そう言って、親父は獄寺の頭を撫でる。
あ、ダメ。オレそろそろ我慢の限界。

獄寺がようやく瞳を開き、とろんとした表情でオヤジの顔を見上げた。
寝ぼけている状態には変わりないらしい。

頬がピンク色に染まっていて、すっげえ可愛い。
もーこんな獄寺にお願いされたらなんだって聞いちまうし、なんだってあげちまう。
にしても、獄寺はいったい何を貰うつもりなんだろう。

そこで、獄寺の口元が動いた。



「やまもと、ちょうだい……?」



聞こえてきたのは甘ったるいおねだりの声で。
これを断れるやつがいるなら見てみたいくらいの可愛さで。
それだけでもう心臓止まりそうなくらいで…―――。

………って、いやいやそーじゃなくて!!獄寺、今、なんて!!?

ばくばくと心臓が高鳴りだした。
獄寺がオレをちょうだいって!クリスマスプレゼント、オレ!?オレでいーの、獄寺!?

「獄寺くん、それだけは勘弁してくんな。せっかくのクリスマスだ、欲しいもんをやりてえが……」

って、断んなよオヤジ!せっかく獄寺にもらわれるチャンスなのに!!

だがその時、獄寺の腕がオヤジの背中からずるずると下りていき。
そのままオヤジを解放した獄寺は、ぱったりと布団の上に倒れ伏した。

くうくうと、獄寺の寝息だけが静まり返った部屋の中に響く。

「………武」

静かな声で名前を呼ばれて、ぎくりとした。

「な、なに、オヤジ?」
「イタリアには行くんじゃねえぞ……。二人とも、ここにいてくれよ……」
「……りょーかい」

―――…ああ、獄寺にもらわれることはイイんだ?

そのままうな垂れて、オヤジはとぼとぼと店の方へと戻っていく。
オレはすやすやと眠り込んでいる獄寺の顔を見下ろした。

バカだなぁ、獄寺。
ちょうだいなんて言わなくたって、オレはとっくにお前のモンなのに。

獄寺が目を覚ましたら、まずなんて声を掛けよう。
たぶん自分が言ったこと覚えてないんだろうな。
獄寺は意地っ張りだから、素直にオレのこと好きだと認めさせるまで時間かかるかもしんない。

とりあえず……なあ、獄寺。オレも獄寺が欲しいよ。

だから。



―――ごくでら、ちょうだい?

 


剛に山本をおねだりする獄。(犬猫じゃないんだから)
大事な一人息子ですからね!ちゃんと剛の許可を貰わないと!
でも剛を一人にしちゃかわいそうなので二人とも竹寿司にいてあげてください。
(2007.12.24UP)

 

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