この気持ちはきっと永遠
どうして、オレなんだろう。
机に頬杖をついて、女子に取り囲まれている男の後ろ姿を眺めた。
言い寄ってくる女なんて山ほどいて、不自由しないだろうに。
それなのに、どうして敢えて男のオレ?
「獄寺…」
甘い声でオレの名を呼んで、山本はそっと口付けてくる。
悔しいけれど山本の長い腕はオレの体をしっかりと包んでいて、マズイことに窮屈な感じが少し心地よかったりしてしまう。
何度目かのキスの後で、オレはその顔を見上げて口を開いた。
「お前さ」
「ん?」
「女と付き合わねぇの?」
オレの言った言葉に、山本はきょとんとして。
それから、困惑気味に首をひねった。
「オレに二股かけろってのか?」
「いや、そーゆーわけじゃ、ねぇけど……男のオレより、女の方がいんじゃねーかと思って……」
オレが目線を逸らしてしどろもどろに言うと、頭上から山本の不機嫌な声。
「オレ、これでもマジに告白したんだけどな」
それから、ぐいと顔を上向けさせられて、恐いくらい真剣な瞳と視線が合わさった。
「付き合うのオーケーしてくれたのに、オレの気持ちをその程度だと思ってたのか?」
「だ、だってよ……」
情けないくらい弱々しい声で反論して、オレは唇を噛んだ。
思い知るのだ。
こうして、キスして抱き合うたび。
自分の体は山本と同じで、硬くて骨ばっかで、女子みたいに小さくも柔らかくもない。
―――きっと、山本だってオレなんか触ってても気持ちよくない。
そんなことを考えていると、ふいに涙が滲んだ。
ダメだ、これ以上山本に触られてなんていられない。
「わ、おい獄寺!暴れるなって!」
山本の腕から逃れようともがくオレを、山本はなかなか離してくれない。
だーーーもう、この馬鹿力!
「…離せっ!!」
思い切って、山本の体を蹴り飛ばした。
「いってー…!」
蹴りが命中した腹を押さえて山本が蹲る。
それを気にしつつも、オレはその腕から逃れられたことにほっとしていた。
「お前なー、何すんだよ…」
「お前が離そうとしねーからだろ!オレなんか触っても気持ちよくねーのに何で離さねーんだよ!?」
「えー?オレは気持ちいーけどな」
「嘘つけ!こんな骨ばっかでゴツゴツした体のどこが…」
言いながら、ぼろぼろと涙が零れてきた。
ヤバイ、と思ってもすでに遅し。オレ以上に慌てた様子の山本がオレの肩を掴んだ。
「獄寺!?どーした!?」
「触んなっつってんだろーが!」
顔中涙で濡らしながらも、迫ってくる山本を力いっぱい押しのける。
我ながら見苦しいとは思うけれども、こんな状態の自分を山本に見られるのはイヤだった。
けれど、やっぱり山本は離してはくれなくて。
オレは山本にしっかりと抱きしめられ、なだめるようにぽんぽんと背中を叩かれた。
「〜〜〜何だよ、お前…!何でオレなんかそんなに構うんだよ…!」
だんだん情けないとか思う余裕もなくなって、山本の胸にしがみつく。
「決まってるだろ、好きだからだよ」
山本の手のひらが、オレの背中を、髪を、優しく撫でる。
山本の胸に顔を押し付けていると、その鼓動がはっきりと感じられた。
それから少し間を空けて、山本は窺うように問いかけてきた。
「オレ、なんかお前が不安になるよーなことしちまったかな?」
違う。オレが勝手に思い込んで、取り乱して、こいつを困らせて。
どうしたらいいだろう。こいつを困らせた分、オレは何ができるだろう。
そっと、山本の顔を見上げた。
山本もオレの顔を見て、気遣うようにいつもより柔らかく笑う。
その時、ようやく合点がいった。
ああ、わかった。ほんとはオレ、恐かったんだ。
山本がオレより女を選んでしまう日が来るんじゃないかって。
だって、オレはどうしたって男で、女には敵わないと思っていたから。
でも、そうだ。
もしこいつが軽い気持ちで告白してくるようなヤツなら、オレはこいつに惚れていなかった。
いつだって本気なこいつだからこそ、オレは好きになったんだ。
「落ち着いたか?」
山本の言葉に、こくりと頷く。
「わりい。オレ、どーかしてた…」
「いーって」
「その、オレもお前のこと………好き、だからな…」
顔中真っ赤にして消え入りそうな声で言うと、山本の笑顔が固まった。
「え?ご、獄寺、もう一回言って…」
「も、もう言わねえ!」
「えー!今のよく聞こえなかった、もう一回言ってくれよ〜!」
「言わねえっつってんだろ!」
「んじゃ後ででいーから!後でもう一回!」
そう言って山本は両手を合わせ、頭を下げてきた。
「後ででもイヤだっ!」
「じゃあ明日!」
「イヤだっつってんだろ!」
「そんじゃあいつなら言ってくれんだよ〜!」
山本があんまりしつこく言うので、頭を掻きながら溜め息をつく。
「…10年後!」
「へ?」
「10年たってもてめーの気持ちが変わってなかったら言ってやる」
「獄寺、10年は長すぎねえ…?」
山本は呆然とした様子で、肩を落としている。
反対にオレは胸をそらして、得意げに山本を見やった。
「なんだよ、てめーの気持ちは10年も続かねーのか?」
「そーじゃねーけどさー…」
お預けを食らった犬のように、山本はうな垂れている。
その様子がおかしくて、オレは口を緩めた。
「せいぜい10年の間に愛想つかされねーように頑張るんだな」
―――10年たっても、お前のこと好きでいてやるから。
本誌が10年後の世界なので気づいたらこんな終わり方に。
もちろん10年たつ前に一線は越えますがね(爆)
10年後同士の山獄の絡みが見たいです。
(2007.4.7UP)
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