素直じゃない彼
「恭弥〜!」
聞こえた声に、校内を歩いていた雲雀は足を止めた。
こちらに向かって手を振るディーノと、その後ろにはツナ、リボーン、山本、獄寺の面々。
雲雀はそれを一瞥しただけで、ふいっと顔を逸らした。
そうしてそのまま、応接室のドアを開ける。
パタン、とドアを閉めると、すぐに後ろからドアを叩く音が聞こえてきた。
「おーい、恭弥、無視すんなよー!」
雲雀はドアを開けると、そこに立っているディーノをしかめっ面で見上げた。
「つれねーなー。なんで無視すんだ?」
雲雀はふいっと顔を逸らした。ディーノは困惑げに頭を掻く。
初めの頃こそ戦うことしかしなかった二人だが、最近では雲雀の方もだいぶ打ち解けてくれていた気がするのに。
「ドア、ちゃんと閉めてよね」
「あ、わりい」
雲雀に言われて、ディーノは開けっ放しだったドアを閉めた。
部屋の中には、雲雀とディーノの二人きり。先ほどまで一緒にいたツナたちの姿は無い。
それを確認すると、ようやく雲雀は表情を緩めた。
「座って」
言われてディーノがソファに座ると、雲雀もその隣に腰を下ろした。
そうして、とん、とディーノの肩に頭を寄りかからせてくる。
瞬間ディーノが息を飲むのがわかったが、雲雀は気にせずにそのまま瞳を閉じた。
「あなた以外の人間と馴れ合う気はない。沢田のファミリーに入ることは了解したけど、それとこれとはまた別だよ」
「恭弥……」
ディーノは嬉しそうに瞳を細め、雲雀の髪を撫でる。
「それって、オレは特別ってことだよな?」
答えない雲雀に、ディーノはそれを肯定と受け取った。
すいっ、と雲雀の顎に手をかける。顔を上向けさせると、至近距離で互いの瞳がかち合った。
漆黒の瞳が、じっとディーノを見つめる。その唇がゆっくりと開いた。
「あなたにとっても、僕は特別?」
「ああ、もちろん」
しっかり答えると、雲雀がわずかに微笑んだように見えた。
「なら、いいよ」
雲雀が瞳を閉じ、ディーノはそっとその顔を近づけた。
ところが、あと数センチで唇が触れ合おうかという、その時。
「大変です、委員長!隣町の中学のやつらが乗り込んできました!」
そう叫びながら応接室に飛び込んできたのは、風紀副委員長の草壁。
その直後に、ヒュッ、と空を切る音。
応接室に入った草壁が目にしたのは、トンファーを構えてひたすら不機嫌そうな表情の雲雀と、その足元で腹を押さえてうずくまっているディーノの姿だった。
「委員長…?」
「すぐ行くから、先に行っててよ」
とげとげしい口調で言われて、草壁の顔から血の気が引く。
「は、はい!わかりましたっ!」
逃げるように草壁が走り去っていくと、雲雀はちらりとディーノを見下ろした。
「ててて…お前、いきなり何す…」
雲雀は気まずそうに沈黙した。
だって仕方ないじゃない、草壁が急に入ってくるんだもの―――。
そんなふうに心の中で反論するけれど、非があるのは明らかに自分の方だ。
「ったく、しょーがねーな、お前は」
ようやく立ち上がったディーノは、苦笑しながら雲雀の頭に手を置いた。
なんだか全て見透かされているようで面白くない。
雲雀がむくれていると、ディーノは少し身を屈めてその耳元に口を寄せた。
「そーいうとこも好きだぜ」
「……!」
雲雀が顔を上げると、ディーノは優しく微笑んで雲雀を見下ろしている。
「ほら、行かないとまずいんじゃねーのか?」
「…わかってるよ」
プイと顔を逸らし、雲雀は身を翻した。
だが、出て行きかけて立ち止まり、ディーノの傍へと引き返す。そうして、ディーノの肩に手を添えて背伸びをした。
ほんの一瞬唇を触れ合わせた後で、雲雀はディーノの耳に口を寄せる。
「僕も好きだよ、ディーノ」
そう囁くと、雲雀は一瞬だけ微笑み、応接室から出て行った。
残されたディーノは、顔中真っ赤にしてしばらくその場に立ち尽くしていた。
人目のあるところでは恥ずかしくって素直になれない雲雀さん。二人っきりになると途端に乙女だ…(笑)
うちのディーノさんは毎度のごとく部下を連れていないのでいつも殴られっぱなし。かっこいいディーノさんも書いてみたいもんですが。
(2006.7.14UP)
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