好きになったら仕方ない
「好きだぜ、恭弥」
「知ってる」
愛想なく答えて、雲雀はくっついてくるディーノを押し退けた。
「なあ、恭弥は?オレのことどう思ってるんだ?」
「うるさい。咬み殺すよ?」
いっこうにめげる様子もなくにこにこしながら雲雀にまとわりつくディーノと、それを冷たくあしらう雲雀。
「ディーノさん、懲りないなぁ…」
目の前で繰り広げられるその様子を眺めながら、屋上の入口でツナはぽつりと呟いた。
これを見かけるのは最早日常茶飯事と化している。
何だってまたよりによってヒバリさんを―――と思わないでもないのだが、なんと言っても大好きな兄貴分のディーノの恋路。
半分呆れながらも半分応援してしまっているツナである。
「しつこい男は嫌われるってことわかってねーな」
ツナと違って100%呆れた様子でそう言うと、リボーンはエスプレッソをすすった。
「うーん…うまくいってほしいけど、あのヒバリさんだもんなぁ…」
いかにディーノと言えど、そう簡単に落とせるとは思えない。
ツナは浮かない顔で息をついた。
その日の放課後。
「ようツナ、今帰りか?」
校門を出たツナは、そこにいたディーノに声をかけられた。
「ディーノさん!」
ぱっと顔を明るくして、ディーノに駆け寄るツナ。
「一人か?珍しーな」
「はい。ディーノさんは、もしかしなくても…」
「オレか?恭弥を待ってんだ」
ディーノは満面の笑みを浮かべながら、予想通りの言葉を口にした。
その笑顔が胸に痛くて、ツナはそろりと口を開く。
「どうしても、ヒバリさんなんですか…?」
「ん?」
「だ、だって、全然脈がな……いやっ、あのっ、ディーノさんが素敵なのは知ってますけどっ!でもオレ、なんだか見てられなくって…!」
ツナが慌てふためきながら言うと、ディーノはふっと笑い、ぐしゃぐしゃとツナの髪を掻き回した。
そうして身を屈め、同じ高さでツナと目を合わせる。
「あんがとな、ツナ」
「ディーノさん…!」
「でもなあ、こればっかはどうしようもねーんだ」
そう言って、ディーノは肩をすくめた。
「脈があろーがなかろーが、好きになっちまったら仕方ねーだろ?そのうち恭弥のやつもほだされるかもしんねーし」
ツナは黙って俯いた。
どうしようもない気持ちがあることくらい、自分だって知っている。
ツナはぐっと拳を握り締め、ディーノの顔を見上げた。
「ディーノさん!オレずっと応援してますから、頑張ってください!!」
「サンキュー、ツナ!頑張るからよっ!」
ディーノとツナはしっかりと手を握り合った。
「きっとヒバリさんだってそのうちディーノさんの魅力に気付きますよ!」
「へへっ、だといーけどな」
「何勝手な話してるの?」
聞こえてきた不機嫌な声に、それまで笑顔だったディーノとツナは同時に固まった。
校門のところに立っているのは、話題の中心人物、雲雀恭弥。
「わあっ!!ヒ、ヒバリさん!!ごめんなさい〜〜〜!!」
「恭弥!ツナは何も悪くねーぞ!」
雲雀は二人に歩み寄ってくると、ツナの胸倉をぐいと掴んだ。
「ひいっ!!」
ツナの顔を引き寄せ、雲雀はそっと耳打ちする。
「言っておくけど、応援なら必要ないよ」
「へ…?」
ツナが恐る恐る雲雀の顔を見上げると、雲雀は不敵な表情で口を開いた。
「ディーノの魅力を一番知ってるのは僕だってこと」
「え!?そ、それって…」
ツナは混乱しながら、目の前の雲雀と、会話が聞こえず取り残されているディーノの顔を交互に見た。
雲雀はツナの顔を至近距離で見つめ、珍しくその顔に笑みを浮かべる。
「ディーノには内緒だよ。言ったりしたら、咬み殺す」
「………っっ!!!」
ツナの顔から血の気が引いた。
「おい恭弥、いい加減にツナを離せよ」
ディーノの言葉の途中で、雲雀はぱっとツナから手を離した。
「僕、帰る」
ふいっと背中を向けて、さっさと歩き出す雲雀。
「え!?わ、ちょっと待てって、一緒に行くってー!」
ディーノは慌てて後を追い駆け出した。彼の部下たちも、その後にぞろぞろとついていく。
一団が行き去ってしまうと、ぽかんと立ち尽くしているツナの横で、いつの間にかやって来ていたリボーンが口を開いた。
「あれはあれでうまくいってるみてーだな」
「う、うん…。なんだ、ちゃんと両思いなんだ…」
「残念そーだな」
「なっ…そ、そんなことないよ!」
ムキになって否定するツナに構わず、リボーンは校舎の方に目を向けた。
「お前にもしつこい男が来たみてーだぞ」
「へ?」
顔を上げると、校舎からこちらへ走ってくるのは、しつこい男の代名詞―――獄寺隼人。
「十代目ーーー!今帰りっすか!?オレお供しますっ!」
「ご、獄寺くん…」
引きつりながらも、ツナはくすりと笑った。
そういえば、自分も最初は彼のことを迷惑だと思っていたっけ。
「お前もすっかりほだされてるな」
「んな!」
そーなの?オレってそーなの!?と蒼くなりながら、ツナはその場に立ち尽くした。
「十代目?どーしたんスか?」
何もわからず首を傾げる獄寺。
その顔を見上げ、ああそうか、とツナは苦笑した。本当にもう、「仕方ない」の一言でしか言い表せない。
「何でもないよ。帰ろう、獄寺くん」
「はいっ!」
一緒に歩き出した二人の背中を眺めて、リボーンはニッと笑みを浮かべた。
手のかかる教え子たちの恋愛は、実に青臭くて笑ってしまう。
「オレも会いたくなってきたぞ」
恋人の顔を思い浮かべ、彼の人に会いに行こうとリボーンは歩き出した。
リボーンの恋人はビアンキじゃないですよ。彼女は愛人。でも誰が本命だろうとリボーンさんにかかればきっとイチコロ。
ていうか、ディノヒバのはずなのに途中から話が獄ツナに。あれ?
ツナは本誌でもディーノさんに惚れてるので(笑)雲雀との仲を複雑な心境で見てればいい。
(2006.7.17UP)
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