目が覚めたら、そこでお仕舞い

 

「―――恭弥」



耳元でそっと囁かれる、僕の名前。呼んだ相手は―――そう、僕の恋人。

すぐに意識を戻した僕は、それでも目を開けずに頭の中で「ああ、またか」とぼんやり思った。
目は覚めているのに、起きたくはない。
だって、起きたらこの人は帰ってしまう。

普段はイタリアで忙しい日々を過ごしている僕の恋人は、こうして僕に会いに日本に来ていても、急な用事でイタリアに飛んで帰ることがしばしばある。
彼自身のルールなのか、僕にきっちりと別れを告げてから帰ることにしているらしく、だから彼は、そのたびにこうして遠慮がちに僕を起こしに来る。

何だか彼の都合に振り回されているようで面白くない。
けれど、僕が一度呼ばれただけで起きるということは、彼にはもうばれている。

―――だから、いい加減に起きなくては。






「おはよ、恭弥」

たっぷりじらしてから僕が瞳を開くと、ほっとしたような残念なような、なんとも言えない笑顔を浮かべて、ディーノが僕の顔を覗き込んでいた。

本当はすぐに起きていたこと、ばれているのかもしれない。
例え気付いていても、ディーノは何も言わないだろうけど。

僕は目を擦りながら体を起こして、すでに身支度を整えているディーノを見た。

「帰るの?」
「ああ、そーなんだ。わりい、ほんとなら明日までいれるはずだったんだけどよ」
「いいよ、別に」

いつものように繰り返される会話と、いつものように手を合わせて謝るディーノ。

僕は軽く頭を振って、ベッドを出た。
昨夜ディーノと愛し合った姿のままの僕の体に、ディーノの視線が張り付く。
僕はバスルームの戸を開けて、そこでディーノに振り向いた。

「急がないとまずいんじゃないの?」
「あ、ああ。そうだな」

ディーノが玄関の方に足を向けたのを確認して、僕はバスルームの戸を閉めた。
シャワーを捻ろうとした時、戸の向こうからディーノの声が聞こえてくる。

「恭弥!待ってろよ、またすぐ来るから!」

それからすぐに玄関の開く音。続いて、ディーノの出て行く足音。
よっぽど時間がないらしく、それは物凄い速さで遠ざかっていった。





「………嘘つき」

力なく呟きを漏らして、バスルームの壁に拳を打ち付けた。
白いタイルにヒビが入る。素手じゃなければバスルームを粉砕していたところだ。

そのままバスルームの床に座り込み、僕は顔を覆った。

すぐなんて言って、どうせまた待たせるくせに。
僕がいつもどれだけ待っていると思ってるの?

「だからあなたは嫌いなんだ…」



―――いっそあなたを閉じ込めて、僕だけのものにすることが出来たなら。

 


寂しん坊な雲雀さん。
場所は雲雀さんのマンションかなぁ。時間は早朝。
雲雀さんとこに泊まったものの、ロマーリオから緊急の連絡が入ってしまいましたとさ。
(2006.7.18UP)

 

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