これで満足?

 

「……なんだ、来てたの」

応接室のドアを開けた雲雀は、ソファに座っている男を見て顔をしかめた。

「よお、恭弥」

明らかに部外者とわかる端正な顔のその男は、雲雀に向かって笑顔を見せた。
キャバッローネファミリーのボスで、一時期自分の家庭教師であったディーノだ。

雲雀はディーノの横に腰を下ろし、その横顔を見た。

「マフィアのボスって、意外と暇なんだね」
「そーでもないぜ。たった今イタリアから着いたとこだからな」
「部下は?」
「外で待ってる」

そう言うと、ディーノは雲雀の肩に腕を回してその体を引き寄せた。

「恭弥、会いたかったぜ」

耳元で甘く囁いたディーノだったが。

ゴスッ!

「ぐえっ!」

脇腹にトンファーを打ち込まれて、呻き声を上げた。

「何すんだよ、恭弥!」

ディーノが腹を押さえながら言うと、雲雀はムッツリした顔で口を尖らせる。

「黙っていなくなった罰だよ」
「何だよ、連絡しないでイタリアに帰ったこと怒ってんのか?しょーがねえだろ、緊急な用事だったんだから。ちゃんと言伝しといたし…」
「沢田にね」

ぽつりと言ってから、雲雀はじろりとディーノの顔を睨んだ。

「沢田に言伝する暇はあるのに、僕に言いに来る暇はなかったんだ?」
「ちげーよ、ツナはちょうどその場にいたから…」
「言い訳なんか聞きたくないよ」

雲雀はぷいと顔を背けた。

「恭弥……」

ディーノは困り顔で髪を掻き回していたが、やがて思いついたようにぽんと手を叩いた。

「焼いてんのか?」
「…誰がッ!」

トンファーを振りかざして、雲雀は振り返った。
だが、ディーノのしまりのない顔を目にして、思わず力が抜ける。

「へへっ」
「…ブサイク」

雲雀はトンファーを下ろして顔を背けた。

「そのしまりのない顔どうにかしないと咬み殺すよ?」
「しょーがないだろ。久しぶりに会えて嬉しくて仕方ねーんだから」
「………」
「恭弥、こっち向けって。オレ、お前の顔が見たくてはるばる日本まで来たんだぜ?」

やがて息をつくと、観念したかのように雲雀はディーノに顔を向けた。
ディーノは途端に嬉しそうに顔を輝かせ、雲雀の肩を抱く。
そうして、その唇を近づけた。
が、あと数ミリのところで雲雀の手に遮られて眉を顰める。

「何だよ、キスしちゃ駄目なのか?」
「顔は見たんだからもう十分なはずでしょ?」
「うぐ」

ディーノは言葉に詰まった。
その様子を見て、雲雀はかすかに口端に笑みを浮かべる。

「―――でも、僕の方は見るだけじゃ満足できないんだけど」
「へ?」

雲雀の腕がディーノの首に絡んだかと思うと、雲雀はそっと顔を寄せてディーノに口付けた。

「…恭弥」

ぽかんとしているディーノを至近距離で見つめて、雲雀は満足げに微笑む。

悔しいけれど、会いたかったのは同じなんだ。
この僕が誰かを待つなんて、認めたくなかったんだけど。
でも、この男は僕にベタ惚れみたいだから―――。

「しょうがない人だね、ディーノ」

雲雀が呟くと、ディーノはふっと笑みを漏らした。

「ああ、惚れてるから?」
「…物好き」

それから雲雀は瞳を閉じ、ディーノからのキスを受け入れた。

 


初書きディノヒバ。なかなか素直にラブラブしてくれない雲雀さんです。
ヘタレなディーノさんは雲雀さんのペースで転がされてればいいと思いますよ。
(2006.7.12UP)

 

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