標的157くらいのDH

 

-side Kyoya-

「あのっ…」

訓練を終えて部屋を出て行こうとしていたところで、後ろから呼び止められた。
ちらと顔を向けると、立ち上がることも出来ないほどに疲弊した沢田綱吉が、ゼェゼェと息をしながら僕を見つめている。
哲もラル・ミルチとかいう女も席をはずしていて、今この部屋の中には僕と沢田の二人だけだった。

「何?今日はもう無理だと思うけど」
「教えて欲しいことがあるんです…っ」

そう言うと、沢田は力を振り絞って上体を起こす。
そうして、不安を露わにした表情で口を開いた。

「キャバッローネの皆さんは……ディーノさんは、無事なんですか……!?」

久しぶりに聞くその名前。
できるだけ平静を装い、表情を変えずに切り返す。

「どうして僕に訊くの?」
「リボーンやラルにも訊いたんですけど……ヒバリさんが一番詳しいからって返されちゃって……」
「…ふうん」

そういえば、沢田はこの頃からディーノのことを随分と慕っていた気がする。
腕組みして、小さく息をついた。

「無事、とは言いがたいね」
「ええっ!?それって…」
「キャバッローネはミルフィオーレの一部隊と交戦中で、現在はこう着状態。音信不通で詳しい状況は一切不明」
「そんな…っ」
「落ち着きなよ。そう簡単にはやられたりしないはずさ。もっとも……より多くのリングとボックスを所持している分、ミルフィオーレの方が優位だ。交戦が長引けば……あるいは……」

そこで言葉を切り、沢田の様子を窺う。彼は顔面蒼白になってうな垂れていた。

「助けたいかい?」
「もちろんです!オレ、早く強くならなきゃ…!」
「…そう。それでいい」

沢田の表情に決意を見て取り、そのまま僕は部屋を後にした。



数週間前、イタリア。今でも思い出しては、悔しくて身が千切れそうになる。
どうしてあの時、すぐにディーノの元に帰らなかったのか。
僕がほんの少しキャバッローネのシマを離れていた間にそこは敵に取り囲まれ、近づくことすら出来なくなっていた。

ミルフィオーレ自体を壊滅させなければ、誰もあの中に入れない。
僕も、あの人の腕の中に帰れない。

そう。だからこそ、あの幼い沢田には早く強くなってもらわなければ。
彼が強くなれば、それだけミルフィオーレの壊滅に近づく。

僕も、ディーノへと近づける。

だから。

それまで、どうか無事で―――。





-side Dino-


「ボス、始まったぜ」
「…ああ」

屋敷の外から聞こえてくる銃撃戦の音。
いったんは治まっていたミルフィオーレの攻撃が再開されたらしい。

仮眠のため被っていた毛布を跳ね除け、オレはソファから体を起こした。

「大丈夫か?あんまり寝てねえだろう?」
「お互い様だ」

心配そうな様子のロマーリオに、そう言って苦笑を返す。

「オレは先に行って状況を見てくる」

ロマーリオが部屋を出て行ってしまうと、オレは傍に置いてあった愛用のムチを手に取り、気を引き締めなおした。

出て行こうとしたところで、戸を開けたままのクローゼットに吊るされている和服が目に付く。
恭弥と過ごすうちにいつの間にか、寝る時やくつろぐ時は和服を着るのが習慣になっていた。
和服は確かにラクだったし、何より恭弥が和服を好んでいたから。

けれど、ここ最近は着ていない。

そんなゆとりのある状況にないというのが、正直なところ。
さらには、和服を好む愛しい恋人も傍にいない。

……日本に戻ったはずの恭弥は、和服を着ているだろうか?

遠く海の向こうの恋人を思い浮かべながら、これを再び着る時には隣に恭弥がいますようにと、そう祈った。

 


本誌読みながらディーノさんの出番を待ちわびてました。
(071010log)

 

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