獄花っぽい

 

非常階段でタバコを吸っていたオレは、後ろに人の気配を感じて顔を振り向けた。
長い髪をかきあげながら、黒川が近づいてくる。
(その髪型アネキを思い出すからやめて欲しい、切実に)

「こんなトコにいたの」
「……なんか用か?」
「別に」

そう言って、黒川はオレの横に腰を下ろした。
オレが訝しげに睨んでいると、黒川はオレの口からタバコを抜き取り。
そうして、それをそのまま自分の口へと持っていった。

「…っオイ!」

黒川は、慣れた手つきでキレイに煙を吐き出す。

「あんま美味くないね、コレ」
「てめー、勝手に取っといてなんだそりゃ!」
「あたし、前吸ってたヤツの方が好きだったな」
「………!」
「ねえ、なんでタバコ変えたの?」
「別に……意味なんかねーよ」

気まずくなり、なんとなく顔を逸らす。
すると、黒川は身を寄せて、オレの顔を覗きこんできた。

「山本のため?」
「なっ…」
「図星でしょ?」

にやり、と黒川はほくそ笑む。
オレはといえば、情けないことに黒川を睨むだけで精一杯だった。
なんでだ、なんでバレてんだ?

黒川はオレの様子を楽しそうに眺めながら、吸い終わったタバコを床でもみ消す。
そうして、そのままオレに顔を寄せてきた。



タバコの味しかしない、キス。



「ま、せーぜー頑張んなさい」

そう言うと、黒川はほうけているオレを放って立ち上がり。
非常階段から出て行こうとしたところで、こちらへ振り返った。

「そういや、沢田がアンタのこと探してたよ」
「なっ…!てめー、それを早く言いやがれ!」

10代目の名前を出されて、止まっていた思考が一気に動きだした。
慌てて立ち上がり、黒川の横をすり抜けて駆けていく。

「どうして、山本なのかしらね…」

そんな黒川の呟きが聞こえた気がしたけれど、オレはただ、きつく目をつぶった。



そんなの、こっちが訊きてぇーよ。
なんでアイツじゃなきゃダメなのか、なんて。

けど、お前の方こそ。
なんで……なんで、オレなんだよ。

まだ苦い感触の残る唇を噛み締め、オレは「ちくしょう」と小さく呻いた。

 


山←獄←花。花ちゃんタバコ似合う!
(070610log)

 

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