「見てコレ!こないだのデートで彼と撮ったんだ〜☆」
「へ〜、いいカンジじゃない」
「いいなぁ〜。あたしの彼、プリクラ撮るの嫌がってなかなか撮ってくれないんだよね〜。やっぱさぁ、付き合ってるからには撮っておきたいじゃない?」
廊下を歩いていると、女どもの騒がしい会話が耳に飛び込んでくる。
いつもならイライラして聞き流すところだが、一つ気にかかる単語があった。
プリクラって何だ……?
彼と取った?採った…捕った………盗った??
よくわからないが、恋人同士で取るものらしい。
でも山本の口からそんな単語聞いたことねぇしな……男同士だと取らないモンなのか?
教室に戻ると、10代目は担任のヤローに呼び出されたらしくいらっしゃらない。
オレは席に座っている山本に近づき、傍の空いていた椅子に腰掛けた。
「なあ」
「ん?何?」
呑気な顔で首を傾げる山本。
「お前………プリクラ、取らねぇの?」
オレと、取りたいとか思わねぇの?―――そんな思いを込めて問いかけると、山本は事も無げに一言。
「いや、たまに撮るぜ」
「へ…?」
誰と?
つか、恋人のオレ以外と取んのかよ!?
オレが呆気に取られていると、山本はぽん、と手を叩き。
「さては獄寺、プリクラ撮ったことねーんだろ?じゃあさ、獄寺もオレと撮らねぇ?」
なんだその、十把ひとからげな扱いは!オレはお前の恋人じゃねーのかよ!?
無性に悔しくなり、オレは勢い良く席を立って教室を飛び出した。
「獄寺!?どーしたんだよ、オレなんかマズイこと言ったか!?」
後ろから追いかけてきながら、山本が問いかける。
屋上に出て、山本が入ってこれないようにドアを体全体で押さえつけた。
「獄寺っ!開けてくれよ、なんで怒ってんだ!?」
「うっせえ!!てめーなんかもう別れてやるっ!!」
声を振り絞って叫ぶと、向こう側でドアを叩いていた山本が動きを止めた。
そして、次の瞬間。
バァンッ!!!と激しい衝撃にオレの体はドアごと押し飛ばされる。
屋上のコンクリートの床に転がって、オレはそろそろとドアの方を見上げた。
怖いくらい真剣な表情で、山本がオレを見つめていた。
「別れるって、何?」
低い声で問いかけられて、びくりと体が震える。
「オレのこと、嫌いんなったの?」
そう問いかけたかと思うと、山本は転がったままのオレの上に覆いかぶさり、両腕を掴んでその場に組み敷いた。
「オレは、別れる気なんてねーから。獄寺のこと……放してやんないよ」
殺意すら感じるほどのその視線に、恐怖と快感が入り混じった感覚が背筋を走る。
それほどまでにオレを手に入れたいと熱望してくれているのなら、オレはなんて幸せなんだろう……。
「獄寺……」
山本の唇が降りてきて、そのまま口付けられた。
「ふ…ぅ、んっ……」
舌で唇をこじ開けられて、そのまま口の中を弄られる。
唇の隙間から、甘ったるい声が漏れた。
わずかに唇が離れた隙に、山本の顔を睨み上げる。
「プリクラ、誰と取ったんだよ……?」
「へ?」
「てめぇ、オレと付き合ってんじゃねえのかよ…」
「獄寺…?なんか、言ってることわかんねーんだけど……」
山本は困惑げに眉を寄せて。
「撮ったのは、野球部の仲間とか、クラスの連中とかだぜ。でも大勢で撮るし、二人っきりでとか撮ることないし…。それに、友だちとプリクラ撮んのって普通によくあることだろ?」
………よくあること?
「プリクラって……恋人同士で取るモンじゃねーのか…?」
「そりゃ恋人同士も撮るだろーけど、別に恋人同士じゃなきゃいけないってわけじゃねーよ。……獄寺、ひょっとしてプリクラ知らねーの?」
ずばりと言い当てられて、ぎくりと顔が強張る。
オレが否定できずにいると、山本はオレの胸に頭を乗せ、肩を震わせて笑い出した。
「ぷっ……ははは!なんだよ、恋人同士のモンだと思ってたのかよー」
「わ、笑うんじゃねー!知らねぇもんはしょーがねーだろが!オレはテメェとは育ちが違うんだ!」
「は、はは……わりぃ、わりぃ」
山本はまだ苦しそうに笑いながら、顔を上げる。
「じゃあ、オレが他のヤツとプリクラ撮ったと思って妬いてくれたのな?」
「………ッ!」
ぱくぱくと口を動かすが、否定の言葉が出てこない。
そんなオレを見て、山本はバカみたいにでれっとした顔で笑った。
「すっげ嬉しい!獄寺が妬いてくれるなんて思わなかった!」
バカヤロウ、このぐらいで喜んでんじゃねーよ……。
「なあ獄寺、今日帰りゲーセン寄ろうぜ。んで、プリクラ撮ろう!」
「そんな簡単に取れるモンなのか?」
「簡単だぜー。オレやり方知ってっから、獄寺は横で立ってるだけでいーのな」
「ああ…」
で、結局、プリクラってなんなんだ…?
その時、授業の開始を告げるチャイムの音が響いて、現実に引き戻された。
まだ山本に組み敷かれたままのオレは、訴えるように山本の顔を見上げる。
「山本、戻るぞ。いい加減に放せ」
「んー。なんかそんな気分じゃねえ」
「っておいコラ、どこ触ってやがる!」
圧し掛かったまま、山本はシャツの裾からオレの腰を撫で上げた。
「折角だし、サボっちまお?」
「なにが折角なんだよ!……って、わ、やめっ……んぁ」
「なあ獄寺」
「……っ…な、ん…だよ…っ?」
話しかけながらも山本の手はオレの肌をさぐることを止めないので、荒い息を漏らしながらそれに応える。
山本は、まっすぐにオレの顔を見下ろして。
「オレ、ホントのホントに獄寺だけだから」
馬鹿みたいに真剣な顔でそう言うので、オレはもうそれ以上何も言えなくって。
雲ひとつない青空の下、ただ夢中で、その頭をかき抱くように抱きしめた。
ああもう大好きだ、このバカヤロウ―――。
アニメで山獄がプリクラ撮ってた!
(070609log)
BACK
|