ヒバピン

 

「……何してるの?」

並盛商店街を歩いていた僕は、見覚えのある背中を見つけて声をかけた。
びくりと背中を震わせ、並中の制服を着た少女がそろりとこちらに振り返る。

「ひっ、ひひひヒバリさん…!違うんですっ、あのっ、これは…!」

並中生の少女―――イーピンは、慌てた様子で自分の足元に転がっている男たちを隠そうと手を広げている。
けれど、どうしたって隠せるものではなく。

そんなイーピンに構わず、僕はのびている男の傍に屈みこんだ。
並盛高校の制服を着た屈強な男は、関節がはずされて白目を剥いている。

「ふうん。相変わらず見事だね」
「うう、ごめんなさい……」

イーピンは叱られた子犬のようにしゅんとうな垂れた。
褒めてるのになんで謝るんだろう。

「やっぱり、こんな乱暴な女の子キライですよね……」
「どうしてそう思うの?」
「だって、ヒバリさん、昔からあたしの見てる前では乱暴しなかったから……」

いや、それは君のことを非力な女の子だと思っていたからであって。
これだけの実力者だと知っていれば、何も気を使ったりしなかったよ。

「あ、あの、拳法封印しようとはしてるんですけど、男の人に近づかれるとつい体が勝手に動いちゃって…!」
「いいんじゃないの、別に」
「へ?」

きょとんとして、イーピンは黒目がちの大きな瞳で僕を見上げた。
その髪を撫で、くすりと笑いかける。

「僕は強い子は好きだよ」
「えっ、あっ、や、好き、だなんて、そんな…っ!」

両手で顔を押さえ、一気に顔を赤く染めるイーピン。
思えば、この過剰なまでの反応にやられてしまったのかもしれない。
もうずっと、以前から。

「ただ、そうだな…」

腕組みして、それからイーピンの頭を押さえると、その額に口付けた。

「きゃあ!!?」

下の方から悲鳴があがったけれど、鉄拳が飛んでくることはなく。
思わず笑いをこぼして、僕はますます真っ赤になって固まっているイーピンを見下ろした。

「…良かった。僕にまで仕掛けてきたらどうしようかと思った」

もちろん、僕は君の攻撃をかわすことくらいワケないんだけれど。
でも、君を力でねじ伏せるのは本意じゃないし。
可愛い顔に、傷をつけたくもない。

「ヒバリさんは別です、決まってるじゃないですか…っ!」
「そうだね、知ってる」

得意げに言うと、イーピンはむぅと眉を寄せて、頬を膨らませた。

「意地悪ですね」
「嫌いになった?」
「そんなわけありませんっ!」

ぷいっと顔を逸らして、イーピンはすたすたと歩いていく。

「ねえ、そっちじゃないよ」
「…?こっちですよ」

イーピンが足を止め、不思議そうに振り返る。
そう、確かにイーピンが居候している沢田の家はそっちの方角だ。
けれど、僕が言ってるのはそういうことじゃなくて。

つまり―――。

「うちにおいで」

そう言って軽く手招くと、イーピンは嬉しさと驚きの入り混じった顔をして。
それから、頷く代わりに僕のスーツの裾を細い指先で掴んだ。

「行こうか?」
「…はい」

今日はもうボスから寄越された仕事もない。
残りの時間、この子に傍にいてもらうのも悪くないと、そう思った。

 


アニメが夏祭りの回でものすごく萌えたカプ。
(070526log)

 

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