ヴァリアー戦後のDH
「やはりまだこちらでしたか」
ドアの方から聞こえた声に振り返ると、副委員長の草壁が立っていた。
「…君こそ、なんでまだいるの?」
「委員長がまだお帰りにならないと、ご自宅から連絡がありまして」
その言葉を聞いて、小さく舌打ちした。
何日も帰らなくたって気づきもしないくせに、気づいた途端これだ。
「ここ最近、ずっとこちらにおられますね。…まだ、待っておられるのですか?」
ずばりと言い当てられた言葉に、顔を逸らした。
「そんなんじゃ、ないよ」
どんなに待っていたところで、あの人がもうここに来ないことはわかっている。
あの声も、笑顔も、もう自分に向けられることはないのだと。
それでも、僕は。
「家の者に伝えておいて。僕は帰らないと」
「しかし…」
「何度も言わせないでよ。早く消えて」
「は、はい」
草壁の足音が遠ざかっていくのを聞きながら、僕はソファに身を沈めた。
そうして、首にかけているチェーンを引っ張る。
チェーンの先で、雲の紋章の指輪が揺れていた。
僕はこの指輪が憎い。
ディーノが僕にこの指輪を渡すこと、それが僕たちの間の必然だった。
それが済んでしまえば、もう僕たち二人を繋ぐものなどなくて。
だからもし、この指輪をまだ貰っていないことに出来たなら。
もう一度、出会った時と同じようにディーノは僕の元に来てくれるんじゃないかなんて、そんなくだらない幻想に取り付かれている。
現実にはもう指輪は僕の手にあって、いくら応接室にいたところで、このドアを開けてディーノがやって来ることなどないのだけれど。
その時、誰もいないはずの夜の校舎に足音が響いた。足音はまっすぐにこちらへと近づいてくる。
草壁が戻ってきたのだろうか。
顔のわりにマメで世話焼きな男だから、頼んでもいないのによく夜食やら毛布やら運んでくるのだ。
ガラリと開いたドアの方には目も向けず、僕は大げさに溜め息をついた。
「余計な気は回さなくていいよ。それよりも、君も早く帰った方が…」
「恭弥」
その瞬間、空気がとまった気がした。
僕の言葉を遮った声は、予想していた人間のものではなくて。
それは、少しだけ懐かしく、甘い響きでもって、僕の名前を呼んだんだ。
はやる気持ちを抑えつつ、ドアの方に顔を向ける。
出会った頃と同じように、ディーノがそこに立っていた。ただし、今回は一人で。
「…何しに、来たの?」
戸惑いを隠しながらそれだけ言うと、ディーノは右手を前に出した。
その手のひらには、四角い小さな箱が載っている。
ディーノは身動きできずにいる僕を見つめて。
それから、極上の笑みをたたえて、口を開いた。
「これを、渡しに」
ディーノが持ってきたのはエンゲージリング(爆)
恭弥の誕生日に何かしたくてあがいた結果だったり…。
(070506log)
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