10年後のDH
緑〜〜たなびく並盛の〜〜〜♪
上着の内ポケットから、聞き慣れたメロディが聞こえてきた。
それは、並中に入学した年から変えたことのない着うた。
携帯の液晶画面に表示されている番号を見て、一瞬息を呑んだ。
はやる気持ちを抑えつつ携帯電話を耳に当て、通話ボタンを押す。
『…恭弥?』
遠く海の向こうイタリアから、その人はそっと僕の名前を呼んだ。
『そこにいるのか?』
「…いるよ」
『そっか…』
電話の向こうで相手がほっと息をついたのがわかった。
『ボンゴレ本部は壊滅しちまったってゆーし、そっちも大変だって聞いてよ…。大丈夫か?』
「誰に向かって言ってるの?」
『ああ、いや…恭弥が強ぇのはわかってるさ。けど、心配くらいはさせてくれよ』
「いらないよ」
喋りながら、携帯電話を落とさないように肩と頬に挟んで固定した。
この二日間トンファーを振るい続けていたせいで手のひらはボロボロになっており、指先の感覚もないに等しい。
もういったいどれだけの敵を屠っただろうか。
それでもまだ、自分のいる校舎の周りには無数の敵がうろついている。
「そっちこそ……やられたりしてないだろうね?」
キャバッローネはボンゴレの同盟ファミリーであり、ボスのディーノは個人的にもこちらのメンバーと親しい存在。
敵が狙っていないはずはなかった。
『ん?ああ、まーこっちにも敵は来てっけどそっちほどじゃねーよ。このくらい軽い軽い』
「ふうん…本当かな」
『信じろよ。オレはボスだぜ?』
「…そうだね」
五千のファミリーを守るためなら、どこまでも強くなる。この人はそういう人だ。
けれど―――と考えたところで、思わず自嘲気味に顔をゆがめた。
先ほど心配くらいさせてくれと言った彼を突っぱねておきながら、やはり自分も彼を心配せずにはいられないらしい。
『…ごめんな、傍にいてやれなくて』
囁くように言われて、びくりと体が震えた。
「なに…言ってるの。今あなたがそこを離れるわけにはいかないんでしょう…」
『ああ。けど…』
そこで言葉を切り、しばらくしてから彼は「なんでもない」と小さく呟いた。
『全部片付けたら、すぐに飛んでくから』
「来なくていい」
『そんな、恭弥ぁ…』
聞こえてきた情けない声に、思わず頬が緩んだ。
「待つのは性に合わないんだ。全部片付けて、僕の方が会いに行くよ」
だからあなたは、無理はしないで。
そう思ったけれど、それは言わないでおいた。
きっと、同じ言葉を返されてしまうから。
その時、肌にぴりっと緊張感が走る。どうやら、休憩の時間は終わったらしい。
「じゃあ、疲れたからもう切るね」
空気が変わったのを彼に気づかれないように平静を装って言うと、ちょっと待ったと電話の向こうで彼が慌てる。
『恭弥っ………』
息を呑むような気配と、しばらくの沈黙。
『―――…信じてる、から』
噛み締めるように言われた言葉に、僕はただ小さく「うん」と答えて、携帯電話を閉じた。
近づいてくる敵の気配。
トンファーをうまく握れない手をハンカチできつく縛って固定し、ゆっくりと立ち上がる。
信じていて。
あなたに会いに行くためなら、どんな無茶だってしてみせるから。
原作でディノヒバが見れそうになかったので妄想してみた。
(070430log)
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