24山獄

 

気がつくと、敵の姿も10年前の獄寺の姿も消えて、オレは見覚えのある場所に立っていた。
中学の頃から通っていた、バッティングセンター。
バットの代わりに剣を握るようになるまでは、毎週のように通っていた場所。

もしかして、今オレがいるのは―――。

「な、なんだアンタ!日本刀なんて持って、どっから入ってきた!?」

目を丸くしているカウンターのおっさんには構わず、オレはそこを飛び出した。





息を切らし、通いなれた道を走る。
10年前の町並みは知っているはずなのに知らない場所みたいで、なんだか不思議な感じだった。

足を止め、店の前の通りに身をひそめる。
10年経っても変わっていない竹寿司ののれん。
その中には、10年前の親父がいるはずだった。

と、その時、ガラガラと戸が開いて、中から見覚えのある常連客が出てくる。
それに続いて、ひょこりと親父が顔を見せた。

「大将、ごちそーさん!」
「おう!また来てくんな!」

変わりのない親父の姿に、目のふちが熱くなった。
今すぐ「ただいま」と親父の傍に駆け寄りたい。

思わなかったんだ、もう二度と会えなくなるなんて。
いつだって家に帰れば親父が元気で待っててくれるんだって、そんなの当たり前だって思ってたんだ。

親父が店の中に姿を消してしまっても、まだオレはその場に立ち尽くしていた。

走り出したくて震える足を拳で叩いて、必死に堪える。
こんなところで感傷に浸っている場合じゃないのに。
オレにはまだ、10年後の世界に守らなきゃならないモノがある。

その時、誰かが背後からオレの体に腕を回した。
いや。誰か、じゃない。この香りも感触も、オレは知ってる。

「そっか…。お前もこっちに来てんだっけ…」

小さく息を吐いて、正面に回された手に自分の手を添える。

「やっと会えたな、獄寺」
「わりぃ、待たせた…」

最後に電話で話した時、親父が消されたらしい、と伝えたオレに、「オレが行くまで待ってろ」と獄寺は言った。
獄寺は知ってるから。親父以外でオレが甘えられるのは、獄寺しかいないんだってこと。
だから、オレも獄寺に会うまでは弱音を吐くまいと決めていた。

ぽたり、と獄寺の白い手にしずくが落ちる。

「ごめんな、オレ…情けなくて」

必死に搾り出した声は、自分でもわかるくらいに震えていた。
笑われるかな、なんて思ったけど、獄寺はただオレの首筋に顔を寄せただけだった。

「…バァカ、もう慣れてんだよ」
「……うん」

背中に感じる、獄寺の感触。
たとえどんなに否定したい未来であっても、獄寺が傍にいてくれる事実だけは変わりませんようにと、そう祈った。

 


原作で24山と14山が入れ替わった時、こんな展開が浮かびました。
(070428log)

 

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