24山と14獄

 

それまでもそいつのことは嫌いだったわけじゃない。
本音を言うと、けっこう気に入っていた。

けれど、この10年後の世界でオレの心を捕らえてしまったのは―――。



10年後の、山本武。









「お前さあ…今、恋人とかいたりすんのか…?」

アジトで休憩中、二人っきりになった隙にオレが意を決して問いかけると、
オレよりずっと背の高いそいつは首をかしげて、それからハハハと笑い声を上げた。

「お前でもそーゆーこと気にすんのなー」
「い、いーじゃねーか!どーなんだ!?いるのか、いねーのか!?」
「いるぜ」

さらりと言われた一言に、一瞬頭が真っ白になる。
目の前にいるのは見慣れた顔なのに、確実にオレの知らない10年を経験していて。
そうして、恋人がいるのだと事も無げに言ってのける。

「フン…てめーなんかと付き合うヤツの顔が見てみたいぜ」

吐き捨てるように行って、顔を逸らした。

「けどさー、オレのことより、普通は10年後の自分に恋人がいるかどーかの方が気になんねえ?」
「!そ、それは…」

気まずい思いで返答に窮していると、山本の手のひらがぐしゃぐしゃとオレの髪をかき回した。

「ははっ、中学の頃ってこんなに可愛かったのなー」
「んなっ…!」
「そんなに、オレの恋人気になる?」
「………それ、は」

下を向いて、オレは手のひらを握り締めた。
中学生のオレが10年後の山本に何を言えるというのだろう。
本来ならば、オレはこの時代にいるはずのない人間なのに。

「オレの恋人な、紹介してーのは山々だけど、今ここにはいねーんだ」

こんな切羽詰った状況では無理もない。
山本が慌てていないのを見ると、ミルフィオーレのターゲットには入っていないのだろうか。

「無鉄砲なヤツだから無事かどうか心配してたんだけど、今は安全なとこにいるみたいだ。…けどやっぱ、顔見てぇな」

そう言って、山本はじいっとオレの顔を見つめてくる。
心臓が痛いのを堪えながら、オレは口を開いた。

「オレの顔なんか見たって代わりにはならねーだろが」
「うーん、そっかなー」

山本はじろじろとオレの顔を眺め回し。

「やっぱ、10年前じゃ色気は足りねーなー」
「は?」

眉をしかめて顔を上げる。すると、山本がオレの耳に口を寄せた。
笑いを含んだ声で、そっと囁きかけてくる。

「覚えといてな?今のオレの一番はハヤトだけど、10年前のオレが一番好きなのはお前だから」

だから、中学生のオレを好きになってくれな―――?

言われた言葉を理解できずオレがきょとんとしていると、山本はひらひらと手を振りながら部屋を出て行った。





ぼんやりとした頭で、山本の言葉を反芻する。

『今のオレの一番はハヤト』
『10年前のオレが一番好きなのはお前』

―――あれ?なんか、これじゃあまるで、山本の恋人って……。

かっ、と顔が熱くなった。

待て待て!山本に好きだとか言われたことねーし!
なのにオレを好きとか、未来の山本に言われても!

赤くなっているであろう顔を両手で押さえながら、ごくりと息を飲んだ。




無事過去に戻れたなら、あいつの気持ちを訊いてみようか?
もし、あいつの口からオレの望む言葉が聞けたなら。

オレも同じ言葉を、あいつに返してやろう。



―――オレも、『好き』だと。

 


原作で24山が大活躍だったころのもの。
(070417log)

 

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