10年後のツナ×ラル
あいつの口から、いつも聞いていた名前。
『ツナ』
その名前を口にする時、あいつは本当に嬉しそうで。
だらしないくらいに顔を緩めて。
ああ、こいつも一人の親なんだなと思う。
家光にそれほど大事にされているツナという人間が、オレは少し妬ましかった。
だって、なりそこないのオレは誰にも愛されたことなどなかったから。
仲間(だと自分では思っていた)のアルコバレーノたちもみんなオレを残して死んでいき。
いつまでたっても、オレは―――たった一人。
* * *
「ねえ、ラル」
「………」
「ラルってば、聞いてるの?」
「そんな喚かなくても聞こえてるさ」
息を吐きながら言うと、テーブルの向かいに座っていたボンゴレ10代目―――ツナは、ほっと表情を緩めた。
「良かったー、あんまり反応無いから無視されてるのかと思ったよ」
「どうしようとオレの自由だろう」
「またそーゆう言い方…」
ツナが肩をすくめるけれども、オレは構わずにフォークを肉に突き刺した。
そのまま黙々と食事を続ける。
「天気もいいし、後で買い物にでも行こうか?」
「お前にはボスとしての自覚がないのか?」
「あるよ。でも、ラルと二人きりで出かけたい」
そう言って、ツナはにっこりと微笑んだ。
日本人だからか、そもそも童顔なのか、二十歳を超えても幼さの残るその顔は、家光とは似ても似つかない。
到底、マフィアのボスにも見えなかった。
「やれやれ…今日は一日お前のお守りか」
「またそうやって子ども扱いする〜!オレはラルより年上なんだからな!?背だってラルよりはでかいし…」
「確かに、出会った時に比べたらでかくなったがな」
「最初に出会ったのは中学生のオレだったんだから、当然だろ」
「ああ、そうだったな」
その時のことを思い出し、思わず笑みをこぼした。
今よりもさらに小さく頼りない、14歳のツナ。
戦いたくなんてないと全身で叫びながら、それでも拳を振るっていた少年。
それが、10年バズーカによってもたらされた、オレとツナの出会いだった。
そこでふと、あることを思い出す。
「覚えてるか?」
「何を?」
きょとん、と首を傾げるツナ。
意地悪く微笑んで、オレは口を開いた。
「オレのハダカ」
ガシャーンッ!とツナの持っていたグラスが、床に落ちて砕け散った。
ツナは真っ赤な顔でわなわなと震えている。
「な、な、なっ…!」
「その顔は覚えてるな。エロガキ」
「今はガキじゃないって!大体、あれは事故だよ事故っ!」
「まったく……大人のお前が同じ時代にいるってことうっかりしてたぜ」
ツナが黙ってしまったので、ふとその顔を覗き見る。
やがて、ツナが「ごめん」と呟いた。
「なんだ、急に」
「い、いや……あの時、謝ってなかったなと思って…」
そういえばそうか、と思いつつも、オレは首を横に振った。
「……別にいいさ。減るもんじゃない」
「よくないよ!せっかくあんな綺麗な体なのに…っ!」
言ってから、ツナはしまったとばかりに慌てて口を塞いだ。
「綺麗…?」
眉をひそめて、ツナの顔を見る。
こんなオレのどこが綺麗だと言うのか。
目の前のツナの方が、よっぽど外側も中身も綺麗なのに。
「ラルは、綺麗…だよ。すごく、綺麗だ」
オレの考えを見透かすかのように、ツナは真っ赤な顔で、けれどオレから目を逸らさずにそう言った。
綺麗だなんて言葉、生まれて初めて言われたけれど。
目の前のツナの言葉なら、信じてもいいかもしれない。
オレの目に映るツナが綺麗なように、ツナの目にもオレが綺麗に映っているのだとしたら。
―――こんなオレでも、愛を与えてもらえるのだろうか?
迷いだらけのオレを見つめて、曇りの無い瞳で、ツナがそっと口を開く。
「ねえラル、君を愛してるって言ったら怒る…?」
原作でラルの水浴びを見た後に書いたもの。まだコロラルが公式だと知る前だった(笑)
(070409log)
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