華人
「本当に目立つね、あなたは」
僕が呟くと、前を歩いていたディーノは足を止めて振り返った。
「オレ、そんなに目立ってるか?」
「自覚ないわけ?」
「んー…」
ディーノはガシガシと頭を掻き、首を傾げる。
「髪の色のせいかもなー」
「あのね、今の日本で金髪なんてそう珍しくもないよ」
「じゃー、なんで?」
きょとんと言う様に、本当にわかっていないのだろうかと眉を顰める。
「綺麗過ぎるんだよ、あなたは」
「へ…?」
「顔だけはムダに綺麗だからね」
息を吐きながらそういうと、ディーノは困惑げに僕を見つめた。
「…何?」
「いや、妙なこと言うと思ってさ」
「なんで。事実だよ?」
「だってさ……恭弥の方が綺麗なのに」
ディーノは間の抜けた顔で、照れ臭そうにそう言った。
途端に、ぞわっと鳥肌が立つ。
「ギャグのつもり?バカなこと言ってると咬み殺すよ?」
ドスのきいた声で言いトンファーを構えると、ディーノは慌てて手を振った。
「バカなことなんて言ってねーよ!だってほんとに綺麗だぜ!?」
「………」
僕はむぅ、と顔をしかめてディーノの顔を睨んでやる。
綺麗?僕が?
この男、目が腐ってるんじゃないだろうか。
元々僕のことを好きだなんていう時点で脳みそは腐っちゃってるに決まってるけど。
「なんだよ恭弥、自覚ねーのか?」
大きな手のひらが、僕の頬に触れた。
「恭弥より綺麗なヤツなんていねーのに」
僕を見つめるその瞳があまりにも真剣で、思わず視線を逸らした。
これだからイタリア人は、なんて心の中で毒づく。
「そう言うの、日本語であばたもえくぼって言うんだ」
「アバラにエルボ?」
「あばたもえくぼ!惚れた相手なら、悪いところも良く見えるってことだよ!」
すると、ディーノは「ああ」と頷き。
「確かにそーかもな」
と笑った。
ねえ、そこで頷くのも失礼なんじゃない?
「恭弥の喧嘩っ早いとこも我侭なとこも、オレには可愛く見えて仕方ねーからなぁ」
無邪気な顔でそう言われて、トンファーを握る手から力が抜けた。
そんなふうに言われては、怒るに怒れない。
「こっちのセリフだよ……」
「何か言ったか?」
「何も」
部下がいないとへなちょこだし、所構わずスキンシップしてくるし。
何より、勝手に惚れて、勝手に口説いて―――。
この人の悪いところなんて、挙げればキリがないくらい思いつくんだ。
なのに。
僕はディーノに惚れてるから、悪いところも全部好きに変わっていく。
キリがないくらい、どんどん好きになっていく。
僕が額を押さえると、途端にディーノは心配そうに肩を掴んだ。
「どーした!?どっか具合わりーのか!?」
「悪い…けど、いい…」
「はあ?」
「あなたのせいだよ」
意味がわからず困惑しているディーノを軽く睨んで、僕は口を開いた。
「これ以上、好きにならせないで」
なんだかんだでラブラブ。
ディーノさんは目立ってても気付かない人だと思う。
普段からあんだけ部下引き連れて歩いてるし、シマでも人気者で顔知れ渡っちゃってるんだろうし。
(2006.8.28UP)
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