今はまだ

 

いつものように応接室のドアを開けると、ソファの向こうに覗く金色の髪。
ソファを覗き込んだ雲雀の目に映ったのは、そこで熟睡しているディーノの姿だった。

「………いったい、誰の許可を得て」

静かな声で呟きながら、すっ、とトンファーを構える。
ヒュ、とトンファーを振った雲雀だったが、ディーノの顔寸前でぴたりとそれを止めた。

―――やめだ。部下のいない時のこの男を攻撃したってつまらない。

顔をしかめ、雲雀は寝ているディーノの横に腰を落とす。
いつもは広々としているソファが、この男のせいでやけに窮屈に感じられた。

それにしても、と雲雀はちらりとディーノに目を向けた。
こんなに無防備でよくマフィアのボスが務まるものだな、と思う。

ディーノはだらしのない顔で相変わらず気持ち良さそうに眠りこんでいた。
ソファにヨダレでも垂らそうものなら即行で咬み殺してやろうと心に決める。

「うーーーん…」

ディーノが唸りながら顔をゆがめた。
枕なしでは頭の位置が落ち着かないらしく、しきりに頭を動かしている。

と、彷徨っていたディーノの手が雲雀の膝に触れた。
それから雲雀の太ももに手を伸ばし、そこに頭を乗せてくる。

決めた、咬み殺そう。
そう思い雲雀がトンファーを握り締めた、その時。

「恭弥ぁ〜〜〜」

にへらと笑いながら、ディーノが雲雀の名前を呟いた。

「…ほんとに寝てるの?」

疑いの目で見下ろしながら、雲雀は軽くトンファーで小突く。
確かに起きてはいない、と確認する。

雲雀は呆れたように、小さく息をついた。

まったく、何で僕がこの男に膝枕なんか―――。
そう思うけれど、あまりにも気持ち良さそうに寝ているので気がそがれる。
もう少ししたら咬み殺そう―――何度かそんなことを思いながら、雲雀はディーノの寝顔を見下ろした。

―――睫毛、長いな。人形みたい。

寝顔は少々だらしないが、まともにしていればかなりの美人のはずだ。
男に美人というのは間違っているかもしれないけれど、この男の場合は本当にその言葉がよく似合う。

―――髪も柔らかい。

明るい色の髪を指先でいじると、ふわりと柔らかい手触りがくすぐったかった。
自分のクセのある黒髪とは全然違う感触が新鮮で、つい楽しくなる。
この男はきっと全身こんなふうに綺麗なんだろう。自分と違って。














「―――ん…?」

夕方近くになりようやく目を覚ましたディーノは、ぼんやりしながら顔を動かして辺りを見た。

「っ!?」

自分がいるのが雲雀の膝の上だと気付き、思わず背筋が凍る。
雲雀はディーノに膝枕をした体勢のまま、すやすやと寝入っていた。

「……恭…弥?」

そろりと呼びかけても、雲雀が目を覚ます様子はない。
雲雀に気付かれないようにどこうかと思ったが、すぐにどくのも勿体無い気がしてしまい、思わずそのままとどまる。

それにしても、何でこんな体勢に―――?

ディーノは雲雀の寝顔を下から見上げた。
起きているとおっかないばかりの雲雀だが、その寝顔は年相応で、可愛らしくさえ感じる。

「ん…」

雲雀の唇が、かすかに動いた。

「ディー…ノ」

呼ばれた自分の名前に、ディーノの心臓が跳ねあがる。

え!?まさか、恭弥が俺のことを―――!?
なんて、はかない期待を抱いたのも束の間。

「―――…咬み殺す」
「…へ?」

雲雀の口から物騒な言葉が呟かれた次の瞬間、トンファーが空を切った。

「おわっ!!?」

トンファーの直撃を食らい、ディーノは壁まで吹き飛ばされる。

「ぐえっ!!」

床に倒れ込んだディーノは、目の前でトンファーを構えている雲雀を見上げて、冷や汗を流した。
その目が尋常じゃない。いや、雲雀の場合いつも尋常じゃないと言えば尋常じゃないのだが、これは―――。

「ストップ!きょ、恭弥、お前まさか…っ!」

雲雀はディーノの言葉などまったく聞こえてはいない様子で、トンファーを振った。

「わーっっ!!やっぱ寝惚けてやがるっ!!」

悲鳴を上げて逃げ惑うディーノ。だが、部下のいない状態のディーノはすぐに雲雀に掴まって再び床に倒された。
その上に圧し掛かってきて、頭上高くトンファーを掲げる雲雀。

「わ、わわっ!恭弥、目ぇ覚ませっ!!」

思わず目を閉じたディーノだったが、そこから雲雀のトンファーが落ちてくることはなく。

「……?」

恐る恐る目を開くと同時に、ぽすん、と雲雀の頭が自分の胸に落ちてきた。

「すーーー…」
「ね、寝てやがる…」

ディーノは安堵の息をついて、雲雀の体を抱えあげた。
雲雀をソファの上に寝かせ、その傍に屈む。

「ったく、寝顔は可愛いのによー…」

その寝顔をじっと見つめていると、ふいに雲雀の手がディーノの腕を掴んだ。

「逃がさないよ…」

またしても物騒な寝言に、ディーノの顔が蒼くなる。

「ディーノは僕のもの…なんだから…」

そう呟いたきり、雲雀は穏やかな眠りについてしまった。

「………参ったな」

予想もしなかった言葉に、ディーノは顔を赤くして頭を掻く。
起きているときは、「邪魔」だの「うっとうしい」だのとそんなセリフしか吐いてくれないのに。
少しは懐いてくれたのだと、自惚れてもいいのだろうか。

ディーノは雲雀を起こさないように、そっとその横に腰掛けた。
しっかりと握られた手は、いっこうに離される気配がない。

目が覚めたら、どんな顔で手を離すんだろうか。
その様子を想像して、ディーノはおかしそうに笑った。

でも、起きたらまた素直にはなってくれないだろうから―――。

ディーノは雲雀の額にかかる黒髪をそっと払いのけ、身を屈めた。

「おやすみ、恭弥」

そう囁いて、そっと額に口づける。



―――今はまだ、もう少しだけこのままで。

 


実は両思いな感じのディノヒバ。でこチューですませる辺りヘタレだな、ディーノさん(酷)
途中で寝てるのが入れ替わりましたね…。雲雀さんてどこでもすよすよ寝てそうなイメージ。そんで寝てても強いと思うの。
ディーノさんは絶対寝顔だらしないと思うんですが。ヨダレ垂らしてそう。そんで寝相も悪いといいよ。あ、でもおならは勘弁してください。家光のおならは許せてもディーノさんは駄目だ。まだ王子様でいてほしいんだよ(何)
この後またディーノさんが寝ちゃってその間に雲雀さんが起きたりするとエンドレスだな〜。そんなことしてる間にすっかり真夜中。なんか平和な二人だ(笑)
(2006.7.14UP)

 

BACK

inserted by FC2 system