二人で過ごそう

 

「なあ恭弥、これからどこに行くんだ?」
「………」
「そーだ、腹へってねぇか?メシでも食いにいこーぜ」
「………」

ムッツリした顔で、商店街を歩く雲雀。その後を追いかけてついてくるディーノ。
そして、さらにその後ろに―――。

「……いい加減にしてくれない?」

ぴたりと立ち止まって、雲雀は後ろを振り返った。そこにいるのは、ディーノの部下の黒服の男たち。
何人いるのか知らないが、ぞろぞろぞろぞろとまるで大名行列だ。

「ディーノ、僕は群れるの嫌いだって言ったはずだよ?」
「だってよー、こいつらついてくるってきかねーから…」

ディーノは困り顔で頭を掻いた。
と、黒服の先頭にいたロマーリオが進み出てくる。

「わりーな。俺たちはボスを危険にさらすわけにはいかねーんだ」

ディーノが部下なしではへなちょこだと知っているだけに、雲雀は口をつぐんだ。
けれど、とそこで思い返す。

「わかったよ。僕があなたたちの代わりにディーノを守る。それで文句ないでしょ?」
「いや、しかし、いくらなんでもお前一人じゃ…」
「ふうん…。あなたたち全員と僕一人と、どちらが強いか試してみる?」

雲雀は自信げに笑い、トンファーを構えた。

「おいおい、ちょっと待て!」

ロマーリオは慌てて手を振った。
自分はボスとこの少年の特訓をじかに見守っていたのだ。その実力は十分すぎるほど知っている。

ロマーリオは他の部下たちと顔を見合わせてから、観念したように頷いた。

「任せていーんだな?」
「誰に言ってるの?」
「わかった」

ロマーリオたちは踵を返し、二人を残して歩き去っていった。









「さー、メシでも食いに行こーぜ」

それまで成り行きを見守っていたディーノは、そう言って足を踏み出した。
ところが。

「おわっ!?」

ディーノは自分で足を絡ませて、お決まりのように派手にすっ転んだ。

「いてててて…」

予測はしていたものの、雲雀は呆れ顔でその姿を見下ろす。

「ほら、早く立ってよ」
「わ、わりーな」

ディーノの手を引いて立ち上がらせると、雲雀はディーノの服についた汚れを払った。
まったく、これではまるで大きな子どもだ。
それがわかっていながら彼の部下たちを帰らせたのは自分なんだけれど。

「はー…情けねー」

そう言って、ディーノはうな垂れた。

「今更なこと言わないでくれる?」
「でもさー、やっぱ恭弥には情けねーとこ見せたくねーし…」
「部下がいないからってあなたはあなたでしょ。別にそのくらいであなたを嫌いになったりしないよ」

そう言った雲雀は、ディーノが目を見張って自分を見つめているのに気付き、首を傾げた。

「何?」
「いや、なんか恭弥がそーいうこと言ってくれんの初めてだからビックリして…」

言いながら、ディーノは嬉しそうに笑う。雲雀はふいと顔を逸らした。

「二人でいる時は僕だってこのくらい言うよ」
「そっか!じゃ、もっと二人でいるようにしよーな!」

ディーノがあんまり顔を輝かせて言うので、雲雀は思わず苦笑した。
ボスでいる時の余裕のある笑みも好きだけれど、こういう時の子どもみたいな笑顔も愛しく思えるのは、惚れた弱みというやつだろうか。

「恭弥、何食いたい?」

言いながら、ディーノは雲雀の手を取った。

「ちょっと!子どもじゃあるまいし…」
「いーじゃん、オレのこと守ってくれんだろ?」

雲雀が手を振り解こうとすると、そう言ってディーノはにっこり笑った。
そう言われては返す言葉がない。

―――守る、か。

これまで自分の縄張りを守ることはあっても、誰かを守ろうとすることはなかった。
目の前のこの男は、自分にとってそれだけ特別な存在ということか。

「恭弥?どーした?」

黙りこくってしまった雲雀に、ディーノが不思議そうに問いかけた。
雲雀はディーノの顔を見上げ、口を開く。

「別に。好きだなと思っただけだよ」
「えっ!?」
「…何でそんなに驚くの」
「い、いや、だってそんな急によ、お前、反則…っ!」

ディーノの動転する様がおかしくて、雲雀はくすりと笑った。

「ちゃんと覚えときなよ、僕はあなたが好きだってこと。忘れたらただじゃすまさないから」
「あ、ああ!わかった!」

必死に何度も頷くディーノ。
雲雀は掴まれたままだった左手でディーノの手をしっかり握りなおすと、その手を引いて歩き出した。

「行こう、ディーノ」

 


なんだか素直な雲雀さん。へなちょこのディーノさんを優しくエスコート(違)です。
ディーノさんは恋愛面においてもへなちょこでいればいい。
何て言うかもう…雲雀さんが保母さんみたいだ(え)
(2006.7.17UP)

 

BACK

inserted by FC2 system