「獄寺隼人、我々と一緒に来てもらおう」
「あ?」

授業をフケて裏庭でタバコを吸っていると、ふいに現われた男たちがオレを取り囲んだ。
時代遅れの長ランにリーゼント、そして腕には風紀の腕章。
オレの脳裏に、ムカつく風紀委員長の顔が浮かんだ。

「っざけんな、うせろ」

ギロリと睨みつけると、連中はオレを捕まえようといっせいに襲い掛かってきた。











「……ったく、無駄な労力使っちまった」

ポケットからライターを出して新しいタバコに火をつける。
身の程知らずな風紀委員どもは足元で伸びきっていた。

「やってくれたね」

聞こえてきた声に、瞬間的にぞわりと鳥肌が立つ。
なんとなく嫌な予感はしていたが、やっぱり出てきやがった。

顔を向けると、ヒバリのヤローがオレ目掛けてまっすぐ歩いてきた。

「てめーの差し金か」
「そうだよ。おとなしく来てくれれば何も手荒な真似をする気はなかったんだけど」

そう言って、ヒバリは足元に伸びている部下たちを見下ろした。

「コイツらは弱すぎて使えないな」

何の感情もない声でそう言って、ヒバリはオレに顔を向けた。

「一緒に来てもらうよ」
「誰が…」

反論しかけて、そこで口をつむぐ。
悔しいがコイツの実力はオレより上だ。
学校の中とは言え下手に歯向かうとどんな目に合わされるかわからない。













ヒバリに連れられてきた場所は、案の定、応接室だった。

「座りなよ」

ヒバリはソファに腰を下ろすと、オレにもその正面に座るよう促してきた。
言われるままに腰を下ろして、ヒバリを睨む。

「で、オレに何の用だ?」
「そんなに警戒しなくても、取って食ったりしないよ」

ヒバリは薄く笑い、オレを見つめた。
なんだろう、何だか今までコイツが向けてきた目とは違う。

「君、本当は女だったんだね」
「なっ…」

ヒバリの口から出たのは、オレが誰にもばらしていないはずの秘密だった。
この日本において、アネキとシャマル以外の人間は知りえないはずの真実。

「てめー、なんで……」
「風紀委員の情報網をなめてもらっちゃ困る」

いや、そもそも風紀委員って情報網を誇るような組織じゃないはずだろ。
うちの学校の風紀委員ってなんなんだよ。

「安心しなよ。口外するつもりはない。ただ、その代わり……」

そこでヒバリは言葉を切った。
いったいどんな要求をされるのかと、ごくりと唾を飲み込む。
だが、その次にヒバリの口から出たのは、オレの予想とはかけ離れたセリフだった。

「僕と一緒にいてくれない?」

頭の中が真っ白になる。

今、なんて言った?

一緒にいろ、でもなく、一緒にいてくれって………このヒバリがオレにお願い?
しかもオレが一緒にいてコイツになんかメリットあるのか??

と、オレを見つめるヒバリの表情にふいに柔らかいものを感じた。
コイツが人間らしい表情をすることなんて無いと思ってたのに―――。

とくん、と心臓が鳴る。思わず胸を押さえた。

なんだコレ?なんでオレ、ヒバリ相手にこんな気持ちになってんだ?

「ダメ?」

おねだりするような声で問いかけられて、とっさに首を横に振った。
すると、ヒバリがふっと息を吐く。

「…そう。じゃあ、これからよろしく。隼人」
「………ああ、よろしく……」

目の前のヒバリはなんだか嬉しそうに見える。
妙なことになったと思うけど………なんでだろ、胸があったけえのは。





この時のオレは、自分とヒバリの関係がどういうものかなんて、まだ理解していなかった。

 


今回はほとんどこの二人しか出てきません。※山獄です
ちなみにリング争奪戦より前の段階の話なので、ディーノは出番ないです。
(2008.1.15UP)

 

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