「ふー。ようやく行ったな」

獄寺を強引にブティックで着替えさせてさらにグラウンドの方へと向かわせたディーノは、満足げな表情で校門に立っていた。

「しかしいい女だったな。山本にやるのは惜しいくらいじゃないのか?」

ロマーリオの言った言葉に、ディーノは声を立てて笑う。

「おいおい、確かに美人だけどそんな気ねーよ」
「ははっ、まあ、ボスは別の誰かさんにご執心だからな」

そう言って、ロマーリオはにやにやと顎をさする。

「ったく、わかってんなら言うんじゃねえよ」

そもそもディーノも獄寺同様に並中に向かっていたのだ。
それは勿論、会いたい相手がいるからに他ならない。

「じゃあオレは先にホテルに戻ってるぜ」
「ああ」

去っていくロマーリオに手を振って見送った、その時。

「今の女、何?」

背後から聞こえた声に、ディーノは勢いよく振り向いた。

「きょーやっ!」

嬉しそうに声を上げて、校舎から出てきた雲雀に駆け寄る。

「久しぶりだな!元気だったか?」

だが雲雀は不機嫌そうに顔をしかめたままで、「今の女は?」と繰り返した。

「へ?」
「だから、今の女はあなたとどういう関係なのかって聞いてるの」
「あ…あーーー…ちょっとした知り合いだ」
「ふうん……ずいぶん親しそうだったけど」

雲雀の不機嫌の理由がわからずに、ディーノはきょとんとしている。

雲雀は先ほど見た女の姿を思い出しつつ、いっそう顔をしかめた。
人種が違うのだから仕方ないが、日本人よりずっとスタイルがよく胸も大きくてウエストもくびれていた。

「恭弥?どーしたんだ?」

ディーノが呼びかけると、考え込んでいた雲雀が顔を上げた。
そうして、睨むようにディーノを見上げる。

「あなたはああいうのが好きなの?」
「へ?な、なんだよ、急に」
「聞いてるんだよ。答えて」
「いや、つうか、あいつは好きとかそーいう対象じゃなくて…?」

戸惑い気味に答えていたディーノは、ふと気がついて雲雀の顔を見下ろした。

「なあ恭弥、なんでそんなこと訊くんだ?」
「だって、僕とは違うから」
「は?」

そう、ディーノの好みがああいうのならば、今の自分とは全然違うタイプだ。
けれど―――と雲雀はいつもの強気な笑みを浮かべてディーノを見上げた。

「まあ、あと3年もすればさっきの女より僕の方がいい女になるよ」
「…………」

ぽかん、と間の抜けた顔でしばらく呆然としていたディーノだったが、やがて恐る恐るといった様子で口を開く。

「恭弥、一つ確認すっけどよ…?」
「何?」
「お前、女なのか…?」
「知らなかったの?」

あっさりとそう答えた雲雀だったが、やはり今の自分より先ほどの色っぽい女の方がディーノの好みなのだろうなと再び考え、ひそかに気落ちした。
だがディーノはといえば、突然しゃがみこんで頭を抱える。

「なんだよー!そんなら告白したって問題なかったんじゃねーか!」
「…え?」

雲雀は首をかしげながら、しゃがんでいるディーノを見下ろした。
と、ディーノの伸ばした手が、雲雀の指先を掴む。
それを軽く引きながら、ディーノは顔を上げて雲雀を見つめた。

「好きだ」
「………っ!?」

雲雀は驚いて咄嗟に手を引こうとしたが、ディーノはその手を逃さず立ち上がって距離を詰めた。
瞳を見開いたままの雲雀を見据え、ディーノは口を開く。

「オレと付き合ってくれ」
「やだ」

ディーノの告白は、わずか一秒の端的な返事によってつき返された。

「おまっ…んな即答することねーだろ!?傷つくじゃねーか!」
「だってイヤなものはイヤなんだ、仕方ないだろ!」

ディーノが声を荒げると、思わず雲雀も声を上げる。

「オレのこと嫌いか!?」
「好きだよ!」
「そんなら………え!?」

思わず言葉を止めたディーノに構わず、雲雀は視線を逸らす。

「でも付き合うのはイヤだ」
「な、何でだよ!?」

こんな予定ではなかったのだ。
もっと、誰が見ても目の前のこの男と釣り合う女になってから、どんな手を使ってでも自分のものにするつもりでいたのに。
今の自分ではまだ―――。

ぐっ、とディーノが雲雀の肩を掴み、瞳が合わさった。

「オレのこと好きだってんなら付き合えよ!」
「やだって言って…」
「じゃあオレがさっきの女と付き合ってもいいって言うのか!?」
「!!」

そんなのは、イヤだ。
今の自分がディーノに似合わないとわかっていても、それでも他の女がディーノの隣にいるのは我慢ならない。

そうか、と雲雀はそこでようやく一つの結論に行き当たった。

それならば、今のうちからこの人を自分のものにしておくしかない。
そうしておいて、いつか、横に並んでもおかしくない大人の女になればいい。

手を伸ばして、雲雀はディーノの腕を掴んだ。

「恭弥?」
「あなたが悪いんだよ。あなたが自分から僕に捕まったんだから……もう離してなんかあげないから、覚悟しておいてよね」

雲雀が微笑みながら言うと、ディーノも笑みを浮かべて雲雀の体を引き寄せる。

「恭弥、それ、お互い様だってわかってっか?」
「僕は捕まってるんじゃないよ。ここにいるのは僕の意思だ」
「だから、それも」

そこで言葉を切り、ディーノはしっかりと雲雀の体を抱きしめた。
お互い様だ、と耳元で囁くと、雲雀はそれには答えずに小さく笑った。

 


うっかりDHに脱線しました。(どんなうっかりだ)
まだお互いの正体を知らないので、珍しく仲良しじゃない雲獄。

次は本筋の山獄に戻ります。

 

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