言わずのアイラブユー

 

「むっくろさぁーーーん!またいっぱい届いたびょーーーん!」

大量のチョコレートを抱えて教室に駆け込んできた犬は、首をぐるりと回して大好きな骸の姿を探した。
だが、人のまばらな教室の中に彼の姿はない。

「柿ピー、骸さんは?」
「…並中」
「ええーーー?せっかく骸さん宛のチョコ預かっれきたのにー」
「食べていいって言ってたよ」
「マジ!?わーい、いったらっきまーーす♪」

チョコレートの山を机に置き、犬はご機嫌で包みを破き始める。
と、その袖を誰かが引っ張った。

「…犬」
「あん?なんらよ?」

犬が問い返すと、クロームがじっと犬の顔を見上げていた。

「これも、あげる」

そう言って差し出したのは、手作りらしきラッピングの施されたチョコレートの包み。

「なんら、お前も骸さんにあげんの?自分で渡しゃーいいじゃん」

すると、クロームはわずかに眉を寄せた。

「違う…。これは、犬に」
「へっ?オレに?」

犬は動きを止めて、クロームの顔を見下ろした。
彼女は頬をほんのり染めて、じぃーっと犬の顔を見つめている。

「…しょ、しょーがねえから、もらってやるびょん」

犬が赤い顔で視線を逸らしながら言うと、成り行きをのんびり見ていた千種が口を開いた。

「犬、言っておくけど、オレと骸様も同じの貰ってるから」
「なっ…!!言われねーでもわかってるびょん!こいつから本命チョコなんて貰いたくねーっつの!!」

言ってしまってからクロームに目を向けると、彼女は大きな瞳で恨めしそうに犬を睨んでいた。

「犬の…ばか…」

そう言い捨てて、彼女は教室を飛び出していった。
ぽかんとしている犬の傍で、千種が呆れ顔で息をつく。

「ほんとバカだね、犬」
「ら、らって…!」
「ちゃんと機嫌とっておかないと、もうご飯作ってくれないよ」
「う゛っ……わ、わかってるびょん!」

そう言うと、犬はクロームのあとを追って教室を飛び出していった。

「やれやれ……二人とも、めんどい」

















並中、応接室。

「校内の様子はどう?」
「はい、今のところは大きな騒ぎもなく例年通りかと」
「そう」

バレンタインデイとなれば、どうしたって校内は沸き立っている。
一年で最も風紀の乱れる日といっても過言ではないだろう。
あらゆる事態に備え、今朝から風紀委員たちは念入りに校内を巡回していた。

「それから、こちらは委員長宛に届いていた分です」

そう言って、草壁はチョコレートのたくさん入った紙袋をテーブルの上に置いた。
それを見て、雲雀はちょっと顔をしかめる。

「みんな僕をなんだと思ってるのさ」
「仕方ありません。いまだに委員長は男だと思っている人間がほとんどですから」
「ふうん…」

いつも学ランを着てはいるが、雲雀は正真正銘の女子生徒である。
別に本人に隠しているつもりもない。
だが、風紀副委員長の草壁とごく一部の教師を除いては、みなその印象から彼女を男子だと思い込んでいた。










草壁が出て行くと、雲雀は風紀委員の仕事を再開した。
書類をめくりながら、ふと机の上の紙袋に目を遣る。

どうしてみんな、こんな物に一喜一憂しているのだろう。
他人から貰うものなどに、なんの意味があるというのか。

……そう、去年まではそれが彼女の考えだったはずだ。けれど、今年は。

雲雀は何かを考え込みながら、デスクの引き出しに目を遣った。



「おや、随分ともてるんですね」



ふいに聞こえた声に顔を上げ、雲雀は窓を睨む。

「部外者は校内に立ち入らないでくれるかい?」
「クフフ。まあそうおっしゃらずに」

鍵のかかっていたはずの窓は開いており、そこから六道骸が部屋に入ってきた。

「勝手に入るとはいい度胸だね」

雲雀が立ち上がりトンファーを構えるが、骸はまったく動じた様子を見せない。

「バレンタインくらい見逃してくれませんか?」
「そんなものが何の関係があるんだい」

そう、自分たちは出会えば戦うだけの関係だ。
バレンタインなんて甘ったるい行事が関係するはずもない。

「関係おおありですよ、僕にとっては。だからわざわざ会いにきたんです」
「は…何それ、チョコレートを貰いに来たとでも言うんじゃないだろうね?」
「おや、くれないんですか?」
「今すぐ死にたい?」
「クフフフ、冗談ですよ」

そう言うと、骸は背中に回していた腕を正面に出し、隠し持っていた花束を雲雀の眼前に差し出した。

「差し上げます」
「……なんのつもり?」
「バレンタインだからといって女性からあげなければならない、というわけではありませんから。これは僕の気持ちです」

骸の手に握られているのは、ピンクの薔薇の花束だった。
普通の女の子ならば、喜ぶところだろう。
しかし、雲雀は不機嫌そうに顔をしかめて骸を見上げた。

「こんなものが、僕に似合うと思ってるの?」
「似合いますよ。……少なくとも、僕はそう思っています」

穏やかに笑って、骸は雲雀の手に花束を預けてきた。
雲雀は口を結んで薔薇を睨んでいる。

「ほら、とても可愛らしい」
「!どこが…」

反論しようと顔を上げた雲雀の唇が、骸のキスによって塞がれた。
次の瞬間、ビュッ!とトンファーが空気を切る。

「おっと、危ない」
「……咬み殺す」

雲雀の体から湧き上がる殺気にも動じることなく、骸は笑顔を絶やさない。

「だってチョコレートを貰えないんですから、このくらいは頂かないと」

雲雀は呆れたようにハァと息をついた。
トンファーを下ろしたかと思うと、デスクのところに行き、引き出しを開ける。

ヒュッ!と何かが骸に向かって投げられた。
それを受け取った骸の表情から、笑みが消える。
四角い箱に入ってリボンのかけられた、バレンタインチョコレート。

「誰があげないなんて言ったのさ?」

そう言いながら骸のところまで戻ってきて、その顔を見上げた雲雀だったが。

「……骸…?」

固まったまま動かない骸を不審に思い、首を傾げた。
と、突然骸の腕が雲雀の体を抱きしめる。

「なっ…!?ちょっと、何す…!」
「雲雀くん」
「…なに?」
「結婚しましょうか?」

ゴスッ!!

「…雲雀くん、本気で殴りましたね」

殴られた頭を擦りつつ、骸が立ち上がる。
本気の一撃を食らったわりにはまだ余裕の表情だ。

「調子に乗りすぎだよ」
「クフフフ。すいません、君があんまり可愛かったもので、つい」

そう言って、骸は雲雀の手を取り、その指先に口付けた。

「では、まずはお付き合いから申し込んでよろしいですか?」
「………ッ!」

雲雀の顔が赤く染まる。
ぷいっと顔を逸らし、雲雀は口を開いた。

「風紀を乱さないなら…………いい」

その答えに、骸は満足げに微笑む。

「好きですよ」
「僕は嫌いだけどね」
「好きです」
「嫌い」

赤い顔でムスッとしたまま同じ答えを返してくる雲雀をおかしそうに見つめ、骸はその顎を捉えた。
軽く上向けさせると、一瞬ためらった雲雀が黙って瞳を閉じる。

「愛していますよ…」

骸の甘い囁きが雲雀の耳に届いた次の瞬間、しっかりとその唇が重ねられた。

 


初ムクヒバが女体ってどうよ。
骸さんが拘束されたままだと話にしづらいので普通に黒曜中に通ってることにしてみました。
骸さんは大量のチョコレートを貰うと思う!あの美貌だしカリスマ性もあるしね!

小説第2弾でものすごい犬×クロームに萌えたので前半は犬クロ風味です(笑)
(2008.2.14UP)

 

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