ひなまつり

 

「よお、山本!」

竹寿司を出て自転車に跨ろうとしていた山本は、呼ばれた声に顔を向けた。
路上に車を止めて、ディーノが降りてくる。

「ディーノさん、こんちは!」
「家の手伝いか?」

自転車の荷台にくくりつけられた寿司桶を見て、ディーノが問いかけた。

「はい、町内の出前です」
「そっか」

と、後ろで店の戸が開いて剛が顔を見せた。

「おい武、おめぇ届け先の住所忘れてるぞ」
「あっ、いっけね」

山本はバツが悪そうに頭を掻く。

「ったく、どこに持ってくつもりだったんでい、お前は」
「はは、山本らしーな」
「ひでーなぁ」

呑気に笑い合いながら、山本は剛から客の住所を書いた紙を受け取った。
それに目を落として住所を読み上げる。

「えーっと……○丁目△番地□号の………ヒバリさんち?」
「………は?」

山本とディーノは、ぽかんとして顔を見合わせた。















それより少し前。

「ここか…」

古めかしい日本家屋の前に立ち、獄寺は屋敷を見上げた。
表札には「雲雀」の二文字。
雲雀に教えられてやって来た、雲雀恭弥の自宅である。

「隼人、いらっしゃい」
「恭弥!?そのカッコ…」

出迎えた雲雀を見て、獄寺は声を上げた。
雲雀は見慣れた学ランではなく、艶やかな着物姿だった。

「だって今日はひな祭りだから」
「ひな祭り、ねえ……こないだから言ってるけど、それって何なんだ?」
「女の子だけのお祭りだよ」





「すっげーーー!」

通された座敷の中に飾られている7段飾りの雛人形を見て、獄寺は声を上げた。
イタリア育ちの上に男として育てられた獄寺にとっては初めて見る代物である。

「キレーだなー。これが雛人形かー」

感嘆の息をついて、獄寺は雲雀を振り返った。

「恭弥の着物もすっげーキレイだぜ!やっぱ着物っていーよなあ!」

ほわほわした様子で、獄寺は何度も息をつく。
普段男の格好ばかりしている獄寺もやはり女の子だ。

「せっかくだから隼人も着てみる?」
「え?い、いいのかっ!?」
「うん。僕のでよかったら着せてあげるよ」

そう言うと、雲雀は奥の部屋から別の着物を持ち出してきた。





「なあ、変じゃねえ?」
「大丈夫。似合ってるよ」
「そっかあ?でもよー、恭弥みてーに黒髪じゃねーし…」

似合っているかしきりに気にしながらも、やはりどこか浮き浮きしている様子の獄寺。
とその時、玄関のチャイムが鳴った。

「なんだ?」
「ちらし寿司だよ。さっき出前を頼んだから」
「寿司!?」

ぱっと顔を明るくして、「オレ出てくる!」と獄寺は立ち上がった。





「はいはいはーい、待ってたぜっ!」

満面の笑みで玄関を開けた獄寺は、そこにいる男を見て固まった。

「まいどー、竹寿司で………って、獄寺!?」

ちらし寿司を持ってそこに立っていたのは、紛れも無く山本だった。

「え?え!?どーしたんだ、そのカッコ!?」
「あ、いや……ひな祭りだからって恭弥が着せてくれて…」
「すっげキレイ!可愛い!抱きしめていい!?」

言うと同時に、山本は獄寺を抱きしめた。

「ぎゃあ!!てめぇ、いいも何ももう抱きしめてんじゃねーかよ!!」

声を上げて山本を押しのけようとするが、山本はしっかりと獄寺を抱え込んで離さない。
だが、次の瞬間。

「おわあっ!!」

自分目掛けて振り下ろされるトンファーの殺気を感じて、山本は慌てて身を翻した。

「あ…っぶねー!」
「僕の家の前で破廉恥な行為をしないでもらおうか」

そこにはものすごく不機嫌そうな顔でトンファーを構える雲雀。

「出前ならさっさと物だけ置いて帰ってよね」

そう言ってしっしっと山本を追い払おうとした雲雀だったが、山本の後ろに顔を見せた相手を見て表情を変えた。

「なんであなたまでいるの?」

怪訝そうに問いかけたが、ディーノはぶるぶると顔を震わせており。

「恭弥っ!!」

そう叫んだかと思うと、がばりと雲雀を抱きしめた。

「ちょっと、苦しい…」
「すっげえ可愛い!愛してるぜ、恭弥っ!!」
「なっ…なに言い出すのさ!こんなところで!」
「ははっ、てれるなって〜。可愛いな〜」
「…っと、とにかく!今日はひな祭りなんだから、あなたも山本も帰ってよね!」

ディーノを突き放し、雲雀は獄寺の手を引っ張って家の中に入ってしまった。





「恭弥、良かったのか!?跳ね馬が来たの久しぶりだろ!?」

表を振り返りながら、獄寺がそう問いかける。

「いいんだよ。だって今日は隼人と二人で過ごすって決めてるんだから」

そこで立ち止まり、雲雀は獄寺に向き直った。

「それとも、隼人は僕より山本と過ごす方がいいの?」
「んなこと言ってねーよ。…てか、オレらよりお前らだって!ただでさえなかなか会えねーんだから!」

獄寺はまっすぐに雲雀の顔を見据え、本当にいいのか!?と問いかける。
雲雀は俯いて唇を噛んだ。

「だって……今日は…」
「意地っ張り」

ふぅっと息をついて、獄寺の指先が雲雀の額を弾いた。
デコピンされた額を擦り、雲雀は獄寺を睨む。

「…隼人に言われたくないよ」
「わーってら。んで、本音はどーなんだよ?跳ね馬と一緒にいてぇんだろ?」
「………うん」

雲雀は躊躇いがちに、こくりと頷いた。

「だとさ」

獄寺が振り返ると、そこには玄関を上がってきたディーノの姿。
雲雀の顔がみるみるうちに赤く染まる。

「恭弥…っ!」

ディーノは瞳をうるうると潤ませて、雲雀に飛びついてきた。

「なっ…!なんで勝手にあがってるのさ!!!」
「だってお前ら寿司受け取ってねーだろ?」
「………!」

そういえば受け取っていない。
見れば、寿司桶を持った山本もディーノの後ろに立っていた。

「じゃっ、恭弥、オレたちは失礼すっから!」

そう言って、獄寺は山本の手を取る。

「え?はや…」
「たまには素直になれよ!」

親指を立ててニカッと笑い、獄寺は山本とともに出て行ってしまった。





「もう…自分のことは棚に上げて…」

頬を膨らませて呟いてから、雲雀は抱きついたままのディーノの足を踏んづける。

「いってぇ!」
「いつまでもくっつき過ぎだよ」
「っつぅ〜〜〜…お前なあ、今スモーキンボムからも素直になれって言われただろー?」

ディーノはしゃがんで足を押さえたまま、涙目で雲雀を見上げた。

「さっき素直になったじゃない。足りなかった?」
「ああ、足りねえ。オレはもっと恭弥とイチャイチャしてーの!」
「…仕方ない人」

そう言った雲雀の顔に、一瞬だけ笑みが浮かんだ。
雲雀はしゃがんでいるディーノの正面にかがみ、その唇にそっとキスをする。
そうして、その腕を取った。

「奥の部屋、行こうよ」
「……え」
「…イチャイチャ、したいんでしょ?」

雲雀が薄く笑って問いかけると、ディーノの口元にもふっと笑みが浮かんだ。

「ああ。そうこねーと」



















「あーあー、ちらし寿司食いそびれちまったぜ」

雲雀の家を出た後、そう言って獄寺は口を尖らせた。
注文主が雲雀なので、当然のごとく竹寿司特製のちらし寿司は雲雀のところに置いてきてしまった。

「着替えもしてねーし……着物って歩きづれぇ」

もたついた歩き方をしながら、ぶちぶちと文句を言っている。

「あ、じゃあさ、うち寄ってかねえ?オヤジにもう一回ちらし寿司作ってもらおうぜ」
「そっか!その手があったか!」

山本の提案に、獄寺が顔を輝かせる。

「けど作ってくれっかな?」

気のいい剛はしょっちゅう寿司をおごってくれるけれど、それは店が終わった後とか店が暇な時の話だ。
忙しい時にまで他人の獄寺のために寿司を作ってくれるだろうか。

「今日のカワイー獄寺見たら絶対大喜びで作ってくれるぜ!オヤジのやつ、獄寺がうちの娘だったらいーのにっていつも言ってるもんなー」
「普通はもっと女らしい娘が欲しいんじゃねーのか?」
「んー、確かに獄寺は女らしくねーな」
「なっ…!悪かったな!」

山本の言葉に、獄寺は思わず怒鳴った。
自分で言ったこととは言え、他人にそうもはっきり言われるとカチンとくる。

「でも、女らしくなくても、獄寺はカワイーのな」
「はっ?」

獄寺がぽかんとしていると、山本は身をかがめてその唇に口付けた。
途端に、獄寺の顔が真っ赤に染まる。

「ほら、こーやってすぐ真っ赤になるトコとか」
「な、な、な…っ!」

獄寺はわなわなと顔を震わせたかと思うと、着物の袖に手を突っ込んでダイナマイトを取り出した。

「でぇっ!?持ってんの!?」
「果てろぉーーー!!!」

ドォォォォン!!!と住宅街に爆音が響き渡った。






雲雀と獄寺、素直じゃないのはどっち?

 


どっちのCPにも絞りきれず中途半端で申し訳ない…!
しょせんどっちもツンデレですよ。恭弥はむしろツンエロでもいい(え)
恭弥♀の家は昔ながらの日本家屋で立派なお雛様があればいい。
(2008.3.2UP)

 

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