「獄寺くん、最近ヒバリさんと仲いいって本当かなぁ」

朝のホームルームが終わった後で、ふいにツナが呟いた。
当の獄寺はまだ登校してきていない。
ツナが目を向けたのにつられて、山本も獄寺の机に眼を向けた。

「あー…あの噂な」

放課後になると獄寺が応接室に出入りしている、と生徒たちの間ではかなりの噂なのだ。
もっとも、一般生徒から見れば雲雀も獄寺も不良であるので、おおっぴらに話すような人間はいないのだが。

「ツナは獄寺からなんか聞いてねーの?」
「うん…別に何も」

ツナは浮かない顔で首をひねった。
他の守護者と群れようとしなかった雲雀が少しでも心を近づけてくれたのなら嬉しいことなのだろうが、それでも釈然としない。
よりによってあの二人だなんて―――。



と、その時、一瞬にして教室の空気が凍りついた。
全員の意識が、たった今教室に入ってきた一人の生徒に集中している。

「ヒッ、ヒバリさん!!」
「ヒバリ!!」

雲雀に気づいて、ツナと山本も条件反射的に身構えた。
雲雀は教室の中をきょろきょろと見回したかと思うと、ツナたちの元へと歩いてくる。

「ひーーー!ごめんなさーーーい!!」

とりあえず謝って頭を抱え込むツナ。
だが、雲雀は口を開き、一言問いかけてきた。

「隼人は?」
「は?…え?」
「まだ来てないの?」
「あ、はい、獄寺くんならまだデス…」
「そう。邪魔したね」

くるり、と身を翻し、そのまま雲雀は教室を出て行った。
雲雀が出て行ったことで、再び教室の中の空気が動き出す。

「び、びっくりしたぁ〜…隼人って、いつの間にヒバリさん名前で呼ぶようになったんだろうね…」

そう言いながらツナは横にいる山本に笑いかけようとして、表情を固めた。

「…山本?どーしたの?」

ツナがそろそろと問いかけると、体全体で不機嫌オーラを発していた山本が我に返る。

「あ、ああ、いや、何でも…ねぇ」
「そう?それにしても獄寺くん遅いねえ。また遅刻かな〜」
「ああ……そーだな…」










放課後。

「邪魔するぜ」

カラリとドアを開けて、いつものように獄寺が応接室に入ってくる。

「ノックくらいしたらどうなの?」

ソファに座っていた雲雀は、そう言って獄寺を睨んだ。
だが、構わず獄寺は雲雀の傍まで歩いてきて、コンビニの袋をテーブルに置く。

「アイス。お前も食うだろ?」
「いただくよ」

だんだんと汗ばんでくる初夏の季節。
グラウンドでは、野球部が汗を掻きながら練習に励んでいる。

獄寺は袋を破いたアイスキャンディをくわえると、窓枠に肘を乗せてグラウンドを見下ろした。

「このあちーのによくやるぜ」

そのままの体勢で練習を眺めながら、「あっ、バカ!」「へたくそ!」などと獄寺は悪態をついている。

「ったく、何やってんだアイツはっ!あのくらい取られるなってんだ!」

獄寺はガシガシと頭をかき、勝手に腹を立てている。

「本当に好きだね」
「あ?野球がか?んなことねーけど…」
「違うよ、山本武」

ぽろり、と獄寺の口から半分ほど食べ終えたアイスキャンディがはずれた。
そのままそれは窓の外を落下していき、下の地面にべちゃりと落ちる。

「あーーーっ!オレのアイス…!お前が妙なこと言うからだぞっっ!」

振り返り怒鳴った獄寺の顔が、赤く染まっている。
雲雀は愉快そうに微笑んだ。

「事実を言っただけだよ」
「………」

あからさまに図星といった顔で、獄寺は言い返す言葉に困っている。

「別にいいんじゃないの。僕にはどこがいいのか理解できないけど」
「うっ…うるせ!てめーこそアイツとはどーなんだよ、跳ね馬とは!」
「…ディーノ?別に、何も」
「よく言うぜ。電話かかってくるたびに嬉しそうにしてるくせによ」

すると、今度は雲雀の顔が赤く染まる。

「そんなことないよ!用もないのにしょっちゅうかけてきて鬱陶しいんだから!」
「へー。そのわりには声が弾んでんじゃねーのかー?」
「……っ」

今度は雲雀が言葉に詰まる。
無言で睨み合ったあと、二人はどちらからともなく苦笑を漏らした。

「しゃーねーか」
「そう、だね」

もう、やめよう。
自分と良く似たこの相手にどれだけ言い訳したところで、何の意味もない。
今の自分にとって、唯一素でいられる相手なのだから。

「ねえ、どこが好きなの?」
「どこって、そーだな…」

気恥ずかしそうに、それでも楽しそうに、応接室で秘密のお茶会を楽しみながら少女たちは語らい始めた。













野球部の練習が終わるのを見はからって応接室を出た獄寺は、校門の前でタバコに火をつけた。
グラウンドの後片付けをして、着替えて―――そろそろ、アイツが出てくる時間。



「あれ?」

聞こえた声に顔を上げると、待ち侘びた相手―――山本が目を丸くして立っていた。

「獄寺!まだ残ってたのか!?」

山本はそう言って駆け寄ってきて、嬉しそうに獄寺の肩に腕を回す。

「馴れ馴れしくすんじゃねーよ、この野球バカ!」
「いーじゃん、一緒に帰ろーぜ」
「…ちっ、しゃーねーな」

わざと舌打ちをして、獄寺は山本と並んで歩き出した。







「獄寺さー、ひょっとして応接室にいたの?」
「え?なんでわかった?」

不思議そうに、獄寺は横にいる山本に問い返した。

「…なんとなく。最近ヒバリと仲いーって噂んなってるし」
「噂あぁ?」
「お前ら二人とも目立つしさ」
「仲いーっつーか……まあ、そーかもな」

獄寺は赤くなった頬をかいた。
同性の友だちなんていたことなくて、なんだか気恥ずかしい。
もっとも、はたから見れば山本との関係も“同性の友だち”のはずなのだが。

だが、山本の横顔を見上げた獄寺は、その表情が翳っていることに気がついた。

「なんだよ、どーかしたのか?」
「んー…なんかちょっと悔しーのな」
「へ?」
「獄寺をヒバリに取られちまった気がして」
「別に…オレはどっちのモンでもねーだろ」
「あはは、そりゃそーだな」

獄寺が睨むと、山本もこちらを向いて笑う。
それから、山本は前を向いて瞳を細めた。

「オレのもんだったらいーのになー」

…………は?

さらりと言われた爆弾発言に、獄寺の顔が固まる。
カアアアアッと一気に頭に血が上った。

「な、な、な……っ」

わなわなと震えている獄寺に構わず、山本は二人の家の分岐点に差し掛かると「また明日な〜」と呑気に手を振っていってしまった。

「なっ、なんだってんだよバカ本っっ!」

真っ赤な顔で、誰もいなくなった夜道で叫んだ獄寺だった。

 


ずいぶん仲良くなった雲獄。
周りは雲獄の関係を不思議がります。そして山本は妬いてます。
もっと激しく妬かせたかったんだけども…うちの山本は白いです…。
(2007.8.29UP)

 

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