「ワオ」
「げっ」

銭湯の脱衣所で衣服を脱いでいた彼女たちは、同様に隣で服を脱いでいる相手の顔を見た途端、動きを止めた。
二人は、お互いに相手の膨らんだ胸を凝視する。



「驚いたね。君は確か、男子生徒のはずじゃなかった?」
「てめーこそ、男じゃなかったのかよ!」
「僕は自分から男だなんて言った覚えはないよ」

そう言って、小ぶりだが形の良い胸を隠しもせず雲雀はふんぞり返った。
周りが勝手に男だと判断してそう思い込んでいるだけで、実際、生徒名簿での性別はちゃんと女になっているのだ。
…もっとも、知っているのはごく一部の教師だけだけれど。

「君の方こそ、転入手続きも男子生徒で受理したはずだけど」

そう言いつつ、雲雀は中学生にしては発育の良い獄寺の胸を見下ろた。
なぜ一生徒であるはずの雲雀が獄寺の転入手続きのことなど知っているのか。

というかそもそも、
なぜこの二人は平日の昼間っから銭湯にいるのか。
二人のシャツに、明らかに本人たちのものではない血痕らしき赤いシミがあるのは気にしないでおく。



獄寺は雲雀の視線を避けるようにしながら、口を開いた。

「ああ。確かにオレは男だと偽って転入した」
「どうして?」
「どうしてって―――…」

言いかけて、獄寺は雲雀の目を見つめた。

「たぶん、お前と似たようなモンだな」
「ああ、そうかもね」

二人は薄く笑い、顔を見合わせた。

きっと自分たちは似ているのだ。
女として生まれながら、男より弱くあることを良しとしない。
違いといえば、雲雀が群れるのを嫌うのに比べて、獄寺はツナや山本とともに行動していることくらいか。

「…本当に、驚いたよ。まさか僕以外にもこんなことしてる人間がいるなんてね。それもこんなすぐ近くに
「こっちだって驚いたっての…」

二人の間に、奇妙な連帯感が芽生える。
これまでは、顔を合わせるたびに勝負ばかりしていたはずなのに。








「なー、跳ね馬はお前が女だって知ってんだろ?」

並んで湯船に浸かりながら、獄寺は雲雀に問いかけた。
この時間帯の銭湯はガラガラで、二人の他に人はいない。

「知らないよ。教えてないもの」
「マジで?にしちゃーヤケにアイツ、お前のこと猫可愛がりじゃねーか」
「そうかな…」
「そーだって!10代目の前でも恭弥、恭弥ってうるせーのなんの…」

言葉の途中で、獄寺は湯船に浸かっているせいではなく雲雀の顔が赤くなっているのに気がついた。

「お前、ひょっとして跳ね馬のこと…」
「!な、何言ってんのさ!そんなわけないでしょ!」

ムキになって睨みつけると、獄寺はバシバシとお湯を叩いて笑い出した。

「ぎゃはは!お前でもそんな顔すんだなっ!」
「……咬み殺す
「ってぎゃあっ!なんで湯船にトンファー持ち込んでんだよっ!!」

獄寺が必死になだめると、雲雀はむくれながらもトンファーを納めた。

「まったく…君こそ、沢田や山本は知ってるんでしょ?」
「いや…知らねえはずだ。リボーンさんには…ひょっとしたらバレてっかもしんねーけど」
「へえ…読みが外れたかな」

雲雀の脳裏に、獄寺を叩きのめすたびに目の色を変えて飛び掛かってくる山本の姿が浮かんだ。
ただの友達とか仲間といった枠を超えたその姿に、獄寺が女だと知っているのならば、と合点がいったのだけれど。




「…そろそろあがっか」

ざばり、と湯船から立ち上がろうとした獄寺の腕を、雲雀が掴んだ。

100数えてから
「………は?」

100数えてから

キッパリと有無を言わさぬ態度で雲雀が言い切ると、獄寺は引きつりつつも湯船に体を沈める。

「年寄りかよ、てめーは…」
「早く数えてよ。僕の分もね
「んだそりゃ!なんでオレがてめーの分まで…」
「ほら、早く」
「………っ!」

歯向かっても無駄だと判断したのか、むくれながらも「いーち、にーい…」と数えだした獄寺だった。






ふらふらとした足取りで、獄寺は脱衣所にあがった。
普段長風呂などしないせいで、かなりのぼせている。
そうでなくても日本人が好む湯の温度はイタリア育ちの獄寺には高すぎるのだ。

「しっかりしなよね。とりあえずそのでかい乳しまったら?

ちゃっかり先に着替え終えた雲雀が、コーヒー牛乳を飲みながら呑気にそう言った。

「このヤロォ、誰のせいだと…」

力なく睨みながら、のろのろと獄寺は体を拭き出した。



「………どうやって隠してるの、それ」

元通りに男の制服を着た獄寺を見て、雲雀は怪訝そうに眉をしかめた。
到底サラシに納まりきる大きさに思えなかった胸は、見事にぺったんこになっている。

「あー?てめーだってサラシ巻いてんじゃねーか。同じだ、同じ」

いや、僕と君じゃ大きさ違うし

と心の中で突っ込んだものの、そこで「ああ、そうか」と雲雀は思い当たった。

彼―――もとい彼女は、体中に無数のダイナマイトを隠し持つという手品を持っているのだ。
たかだかDカップやEカップの胸を隠すくらい、彼女にとっては朝飯前なんだろう

―――まあ、依然としてその手段が謎なことに変わりはないのだが。







「おめーも学校行くのか?」
「委員会の仕事があるからね」

今から行ってももう授業は終わってしまうけれど、二人は揃って並中へと向かっていた。

「君こそ、何しに行くの?」
「10代目の下校のお供だ!」
「ふーん…てっきり野球部の応援かと思った」
「なっ!なんでオレが!!」

言いながらも、獄寺の顔は真っ赤に染まっていて。
雲雀は楽しそうに、笑いをこぼす。






「ねえ」

校門をくぐり別れようとしたところで、雲雀が獄寺を呼び止めた。

「応接室から野球部のグラウンド見えるんだ。今度、おいで」

予想外の雲雀からのお誘いに、獄寺はぱちくりと瞬きし。
それから、苦笑をもらして肩をすくめた。

「しゃーねーな、行ってやらー。茶くらい出んだろーな?」
「出るよ。君が淹れてくれれば」
「んだそりゃ!客に淹れさせるって有り得ねーだろ!」

獄寺が叫ぶのに構わず、雲雀はくるりと身を翻す。

「じゃあ、またね。獄寺隼人」







「……変なカンジ」

去っていく雲雀の後ろ姿を眺めながら、獄寺はぼそりと呟いた。

昨日までは、顔を合わせるたびに反発して、戦っていたはずなのに。
けれど―――自分と同じなのだとわかった後で雲雀といるのは、心地悪くなかった。
雲雀も同じように感じてくれていればいいのに、と思い、獄寺はほんの少しだけ嬉しそうに笑った。

 


なんだか仲良くなりそうな雲獄。
女体獄はどんなでかい乳も四次元テクで隠せると思います。
ちなみにMY設定で獄寺は巨乳、雲雀はスレンダー美脚ですよ。
(2007.8.27UP)

 

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