列になり、体育館へと入っていく生徒たち。

「お兄ちゃん、卒業おめでとう!」
「お兄さん、卒業おめでとうございます!」
「うむ!」

今日は並盛中学の卒業式。
ツナたちは卒業する笹川了平を取り囲んで体育館の前に集まっていた。

「そういえば獄寺くん、ヒバリさんは?」
「来るとは思うんすけど……まだみたいっすね」

並中を愛する彼女が卒業式に来ないわけがない。
応接室にでもいるのだろうか。



その時、校門の方がいっせいに騒がしくなった。



「なんだ?」

そちらに顔を向けると、一人の女生徒がしっかりした足取りで門を入ってくる。
ショートの黒髪に、スカートから覗くスラリとした足。そして、腕には風紀の腕章。

彼女はツナたちの中にいる獄寺に目を留めると、「やあ」と笑いかけた。

「恭弥!!?おまっ…なんで、その格好…!?」
「最後くらいちゃんと制服を着ようかと思ってね。ディーノも見たいって言ってたし」

そう言うと、雲雀は後ろを振り返った。
門の外に止まっている車の中から、ディーノが手を振っている。







「マジかよ、あのヒバリさんが女…」
「すげえ美人…」

その場にいる生徒たち全員が、雲雀の姿に動揺している。
騒ぎを聞きつけ、校舎からも体育館からもわらわらと生徒たちが集まってくる。

「い……委員長!?」

やって来た風紀委員たちも、雲雀を見て愕然とした。
副委員長の草壁が雲雀の前に駆け寄り、問いかける。

「そのお姿は一体どういうことですか…!?」
「制服着てるのがそんなにおかしい?」
「い、いえ、しかし、それは女子の制服では…」
女子が女子の制服を着るのは当たり前だよ
「じょっ…!?」

草壁をはじめ、いっせいにその場に固まる風紀委員たち。
見るからに女子と縁の無さそうな硬派な男たちの集まりなだけに、自分たちの大将が女だと知った彼らの衝撃は凄まじかったようだ。

しばし雲雀の姿に見惚れていた彼らは、いっせいにその場にひれ伏したかと思うと、揃って口を開く。

「「「委員長!一生ついていきます!!」」」
「いい心がけだね」

実際、3年生の風紀委員のほとんどは雲雀と一緒に並盛高校に進学するのだ。
高校に行ってもこの関係は変わらず続くらしい。

















式が終わり、校庭でも校舎でも、生徒たちは各々に卒業生との別れを惜しんでいる。
雲雀と獄寺は、今までと同じように応接室にやって来ていた。

「みんなすっげー驚いてたな」
「そうだね。隼人も来年やってみたら?」
「じょーだん。今さら女の制服なんて着れっかよ」
「だって、まさか高校まで男のフリして通す気じゃないんでしょう?」
「んー…それはさ…オレも無理かなとは思うけどよ…」

かと言って、今日の雲雀のように全校生徒から注目されるのはまっぴらだった。
雲雀はむしろ周りの反応を楽しんでいるふうだったけれど。

「寂しいな」
「お前、学校好きだもんな」

雲雀がポツリと言った言葉に獄寺がそう返すと、雲雀は小さく首を振った。

「隼人と離れるのが寂しいんだよ」
「へ…?」
「隼人は、僕が卒業するの寂しくない?」
「……そりゃ、寂しいぜ。お前、いつも応接室にいてくれたし。山本のこと相談できんのも、お前だけだったし…」
「並中にはいなくなるけど、何も変わらないよ。山本が何かしたら、いつでも咬み殺しに来るから」
「…サンキュ」

と、雲雀の携帯が鳴り響いた。

「ディーノが迎えに来たみたい。じゃあ、隼人、元気でね」
「あ、ああ」

雲雀は立ち上がって応接室を出ていく。
獄寺もその後に続いて、部屋を出た。

「門まで一緒に行くぜ。どーせ山本もその辺にいるだろーし」







二人が校舎を出ると、校門の前にディーノの車が止まっており、その周りに山本、ツナ、リボーンが揃っていた。

「お待たせ」
「じゃ、帰るか」

車に乗り込んだ雲雀に、獄寺は駆け寄った。

「恭弥、またなっ!」

と、車のウインドウを開けて雲雀が獄寺を手招く。

「またね、隼人」

そう言うと、雲雀は獄寺の顔を引き寄せて、唇すれすれのその頬に口付けた。

「なっ…、ヒバリっ!」
「唇ははずしてあげたんだから、感謝してよね」

思わず声を上げた山本に向かって、雲雀はつんとしてそう答える。
運転席では、ディーノが肩を震わせて笑いを堪えていた。





そのままディーノの車が行ってしまうと、山本は獄寺に駆け寄る。

「獄寺、ヒバリにキスされたのどの辺!?」
「え…よくわかんねーけど…この辺かな…?ってコラ!何する気だ!」
「何って消毒に決まってんだろ!」

山本は獄寺の顔を両手で挟み、その顔を近づける。
獄寺は慌ててその顔を押しのけた。

「止めろっての、誰かに見られたら…」
「ヒバリはよくてオレはダメなのかよっ!」
「んなこと言ってねーーー!」

「もー、こんなところで…」

ぎゃあぎゃあと喚きあう二人を眺め、ツナは頭を押さえた。

ちなみにこの一連の流れを見ていた生徒たちの間で、獄寺と雲雀が恋人同士だという噂が流れることになるのだが。
それと同時に、山本ホモ疑惑が広まったのは言うまでもない。




















「ったく、あの野球バカ…」

疲れ果てた様子で、獄寺はマンションのドアの前に立った。
いい加減に雲雀相手に妬くのはやめてもらいたいものだ。
もちろん、あおる雲雀の方にも問題はあるのだが。

「ん?」

と、荷物を抱えた引越し業者の男たちがこちらへ向かってくる。
彼らは獄寺の部屋の隣のドアへと、荷物を運び入れていった。

「そーいや隣は空き部屋だったな…。誰か入ったのか…」

と、部屋の中から聞こえてきた声に獄寺は持っていたタバコを落っことした。

「戸棚はそっち。そう、そこ。ベッドは―――」

獄寺は慌てて隣の部屋へと駆け込み、部屋の中央で引越し業者に指示を出している人間を見る。

「恭弥!?」
「やあ、隼人。お帰り」

まだ制服姿のままの雲雀が、獄寺の姿を認めてにっこりと笑った。

「な、なん、なんでお前っ…」
「隼人のマンションに引っ越そうかな、って言ってたじゃない。今日からお隣だよ。よろしくね」

と、エレベーターから降りてきたのはディーノ。

「お、スモーキンボムも帰ってきたか。食いモンとワイン買ってきたから、卒業&引越し祝いにパーッとやろーぜ!」
「跳ね馬、お前まで…っ」
「だって婚約者の恭弥の家なら、オレにとっても家みてーなもんだろ?」
「そういうことだよ。それにここの名義はディーノだし」

卒業祝いに買ってくれたんだよね、と雲雀はディーノの顔を見上げた。
ディーノは雲雀の肩を抱いて、獄寺に意味ありげな笑顔を向ける。

「ちっと夜中うるせーかもしんねーけど、ゴメンな?」

すると、ボッと湯気が出そうなほど獄寺の顔が赤く染まった。

「ははは、相変わらず面白いくらい反応すんなー」
「だから可愛いんだよ」
「でももう山本とやることやってるんだろ?」
「うん。僕の調べでは月に平均して…」



「てめーら出てけーーーーっ!!!」



獄寺の怒鳴り声が、マンション中に響き渡った。






雲雀と獄寺、ひょんなことから女同士として友情を芽生えさせた二人。
どうやら4月からも、二人の縁はまだまだ続きそうである。



end


終わった……!!
雲雀が卒業式で女だとバラして終了、ってのは最初から決めてました。
想定外だったのは山獄がやっちゃったことですね!(プラトニックのままで終わる予定だったのよ…)

獄寺くんは隣の部屋の騒音にガマンできなくなったら竹寿司に逃げればいいよ。
もう同居しちゃえばいい。いつの間にか商店街公認で竹寿司の嫁になってればいい。
で、一年後の卒業式で女だとバラして山本と付き合ってることもバラしちゃえばいい。

初の長編で色々いたらなかったと思いますが、ここまでお付き合いくださった方、本当に有難うございました!
(2007.10.23UP)

 

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