「っつーわけで、オレ、恭弥と応接室に泊まっから」
「………へ?」

部活に行く前に呼び止められた山本は、言われた言葉が理解できずに目の前の恋人をまじまじと見つめた。
「つーわけで」も何も、今なんか説明あったか?

「だーかーらー、恭弥とガッコに泊まるっつってんだよ。今日は一緒に帰らねぇから、オヤジさんによろしく言っといてくれよな」

一方的に言うだけ言って、獄寺は「んじゃな」と手を振って行こうとする。

「ちょ、ちょっと待った!ダメだって、そんなのっ!」

慌てて叫び、山本は獄寺の腕を掴んだ。

「んだよ、離せ」
「なに考えてんだよ、ガッコに泊まるなんてダメに決まってんだろ!?」
「いーんだよ。別にオレ、マジメな生徒じゃねーし」
「そーじゃなくて!危ないって言ってんだよ!」
「バーカ、オレと恭弥だぜ?寝首かこうもんなら返り討ちにしてやらー」
「〜〜〜じゃなくてっ!」

まったくわかっていない様子の恋人に、山本は「あ〜も〜!」と地団太を踏む。
それから、獄寺の両肩に手を置いてその顔をまっすぐに見据えた。

「お前、女なんだぜ?」

声を潜めて言い聞かせるようにそう言ったけれど、獄寺はさっぱりわかっていない様子で。

「んなのわかってっけど…オレなんて男のナリしてっし、男にしか見えねーだろ?」
「格好がどーとかいう問題じゃなくってー…!」

自分がどれだけ可愛いか無自覚な恋人にどうわからせたものか、とウンウン唸っていた山本だったが。

「さっきから廊下でうるさい。咬み殺すよ?」

ふいに背後から聞こえた声に、慌てて身構えた。

「ヒバリっ!お前のせいだろ、獄寺がガッコに泊まるとか言い出したの!」
「一緒に泊まるって言い出したのは隼人本人だよ。ここしばらく一人で泊まってたんだけど…」
「恭弥のヤツ、もうじき卒業だから家に帰るの勿体無いってゆーんだぜ。いくらコイツでも一人でガッコに泊まらせんのなんか物騒だろ?だからオレも一緒に泊まることにしたんだ」
「一人でも平気だって言ったんだけどね。何人で来ようと返り討ちにするだけだし」

雲雀の方も、危険の捉え方が獄寺とまったく同じだ。
どうしてこう二人とも自分の姿に自覚が無いのか。

「お前らな〜…」

確かに、どんな目的であれ誰が相手であれ、この二人なら簡単に返り討ちにしてしまうのだろうけれど。
けれどやはり獄寺にベタ惚れな山本としては、夜の学校なんてところに泊まるのを黙って見過ごせるはずも無く。

「じゃーオレも!オレも一緒に泊まるっ!!」
「「は?」」

雲雀と獄寺は、揃って怪訝な顔をした。

「なんでお前まで…」
「何勝手なこと言ってるの。僕の学校に君を泊まらせるわけないでしょ」

案の定、山本の申し出はあっさりと雲雀に断られた。

「けど…っ」

ぐぅぅ、と策を探す山本。

「面白そーだな」

と、ふいに下から声が聞こえ、三人は足元を見た。

「やあ、赤ん坊」
「ちゃおっす、ヒバリ。どーだ、オレも泊めてくれねーか?」

リボーンの提案に雲雀は一瞬考え込み、それからすぐに頷いた。

「いいよ」
「えーっ!?なんで小僧はいいんだよっ!?」
「諦めんだな、山本。こいつらの安全はオレが保障してやるから」
「ずりぃ…」

山本は恨めしそうにリボーンを睨んでいる。
ツナの家庭教師というのもあながち嘘ではないともうわかっているのだし、確かにこの赤ん坊が一緒ならば何も危険などないだろうけれど。

「ほら、部活始まるんじゃねーのか?」

獄寺が背中を叩くと、山本はしぶしぶながらも部活へと向かっていった。


















その夜。

「恭弥、いつもコッチで寝てんの?」
「うん。隼人はそっちのソファ使っていいよ」

銭湯で汗を流した後、応接室に戻ってきた二人は、持参したパジャマに着替えて楽しげに寝支度をしていた。

「赤ん坊はどうする?」

雲雀が問いかけながら振り返ると、リボーンはどこに持っていたのかハンモックを取り出した。

「オレはコレだぞ」

そう言って、器用に壁にハンモックの紐を引っ掛ける。






「おめーたち」

暗闇の中で、リボーンがぽつりと口を開いた。
二人は黙ったまま、リボーンの声に耳を傾ける。

「明日からはちゃんと自分の家に帰んだぞ」
「やだ」

雲雀はきっぱりと即答して、リボーンの方に顔を向けた。

「まさか君まで、危ないとでも言うのかい?」
「別にオレは危ないなんて思っちゃいねーぞ。なんたって、おめーはうちの最強の守護者だからな。それにオレは、おめーを女扱いするつもりもねーんだ」
「それなら…」
「けど、ディーノなら、さっきの山本みてーに心配して止めるに決まってんだ。アイツはおめーを女扱いするからな」
「…………」
「ここにいねえアイツの代わりにオレが心配してやってんだ。ありがたく素直に聞いとけ」

雲雀は何も答えない。
それは、暗にリボーンの言葉を聞き入れたということだった。

赤ん坊の言い方は卑怯だと、雲雀は思った。
ディーノは自分を女扱いしていい唯一の相手なのだ。
そのディーノの代わりだなんて、そんなの無視出来ないに決まっているのに。

「獄寺もだぞ。あんまり山本に心配かけんな。それと、ツナにもな」
「なっ…!オレは10代目にご心配おかけするつもりなんて…」
「山本がおめーを心配してるってことが、そのまんまツナの悩みになるんだ」
「…………」

なるほど、お優しい10代目ならそうかもしれない、と獄寺は納得した。
10代目はファミリーのために心を痛める繊細な方なのだから。

「わかりました、リボーンさん!オレ、10代目のためにも山本に心配かけねぇようにします!」
「それでいい」

表情は見えないが、リボーンはその顔にニッと笑みを浮かべたようだった。


















数日後。

「今日、帰りお前んち寄れねーから」
「へ?」

部活に行こうとしていた山本は、呼び止められた恋人にいつかと同じことを言われてきょとんとした。

「今度は何?」
「恭弥がうちに泊まるって言うからさ」
「獄寺んちに?」
「ああ。うちに泊まるんなら危なくねーだろ?」
「そりゃ、そーだけど…」

そこで言葉を切り、山本は獄寺の様子を窺うように問いかける。

「まさかこれからしばらく続く…ってことねーよな?」
「君には関係ないよ」
「わっ!」

いつの間にか後ろに立っていた雲雀に、山本は慌てて飛びのいた。
雲雀はそんな山本に構わず、獄寺ににこりと微笑みかける。

「隼人さえよければいくらでも泊まりたいな。もうじき卒業だし、隼人と一緒にいられるのも今だけだからね」
「そーだよなー、卒業したら会いづらくなるし。オレはいくらでもいてくれて構わねーぜ!」

と笑顔で応える獄寺。

「ちょ、ちょっと待った!獄寺、それ、あんまりじゃねえ!?お前の彼氏はオレだろー!?」
「お前は毎日教室で会ってるじゃねーかよ。卒業も関係ねーし」
「けど、オレだってまだ獄寺んち泊めてもらったことねーのに…」
「オヤジさんが反対すんだろ」
「う゛ぅ……」

うな垂れてしまった山本を見やり、雲雀はご機嫌な様子で獄寺の腕を取った。

「じゃあ、行こうか。隼人」

とその時、雲雀の携帯の着メロである並中の校歌が鳴り響いた。
雲雀は携帯電話を取り出し、電話に出る。

「もしもし……うん、学校。……ほんとに?わかったよ、それじゃ」

電話を切った雲雀は、ぱ、と獄寺の腕を離し。

「ディーノが今夜の飛行機で来るってゆーから、僕、迎えに行かなきゃ。隼人、また明日ね」
「へ?ちょっ、恭弥…っ!?」

浮き浮きした様子で雲雀が行ってしまうと、呆気にとられていた獄寺は腹立たしげに壁を蹴り飛ばした。

「なんだよ、恭弥のヤロー!結局友情より男かよっ!」
「まーまー、いーじゃねえの」
「だってよー、折角今日は恭弥が泊まりにくると思って…」

憤まんやる方ない、といった様子の獄寺をなだめながら、山本はその肩に腕を回した。

「ヒバリの代わりに、オレが泊まっちゃダメ?」
「オヤジさんになんて言うんだよ」

そう言って、獄寺はジロリと山本を睨む。

「野球部の友だちの家って言っとく。だからさ、泊めて?」

甘えるような目で見つめられて、獄寺は小さく息をついた。

「…しょーがねーな。なんも出ねーぞ?」
「いーよ。獄寺いただくし
「なっ…」

言葉を失い、ぱくぱくと口を動かす獄寺。

「あれ?ダメだった?」
「〜〜〜ダメだったら泊めねーよ、バカヤロ!」
「へへっ、じゃあ、部活終わるまで待っててくれな!」

嬉しそうに手を振りながら、山本は部活へと走っていってしまった。

 


もう卒業まで秒読みくらいの時期だと思ってください。
卒業が近づいてきて、家に帰るのも惜しいほど学校を離れたくない雲雀。
リボーンが一緒に泊まる方がある意味一番危ないとか思わないでも。
(2007.10.18UP)

 

BACK/NEXT

inserted by FC2 system