「捕まえた」
こそこそと廊下を歩いていた獄寺は、ぐわし、と背後からものすごい力で肩を掴まれ、その顔を蒼くした。
「最近どうして来ないの?」
背後から問いかけられた声は静かだけれど、明らかに機嫌が悪そうだ。
獄寺はぱくぱくと口を動かしてから、ようやく声を発する。
「べっ、べ、別に、ワケなんかねぇよっ…。最近ちょっと用事があっただけで…」
「ふうん?野球部の練習が終わるのを教室で待ってるのが用事?」
「………っ」
ふ、と獄寺の肩を掴む力がやわらいだ。
「ねえ、僕と会うの嫌になったの?」
珍しく自信なさげな声で言われ、獄寺は思わず振り返る。
そうして、反対に獄寺の方から雲雀の肩を掴んだ。
「バッカ、違ぇよ!お前のこと嫌になるわけねーだろ!そーじゃなくて、その…お、お前が、は、跳ね馬と……」
そこで口ごもり、獄寺は耳まで真っ赤になる。
きょとん、と首を傾げていた雲雀だったが。
「……ひょっとして、見ちゃったの気にしてる?」
ボンゴレ本部でのパーティーの翌日。
まだ雲雀とディーノがベッドで仲良く眠っていると、雲雀を起こしにやって来た獄寺がその光景を見てしまったのだ。
それが図星だったらしく、獄寺は無言でこくこくと頷いた。
「僕は気にしてないよ」
「オレが気にすんだよっ!ダチのあんなとこ見たらどう顔合わせていーかわかんねーだろがっ!!」
「別に最中だったわけでもないのに」
「んなもん見たら心臓止まるっての!!」
と、雲雀が小さく吹き出して笑い出した。
「君って、帰国子女のわりに純情だね」
「…悪かったなっ!ずっと城ん中閉じ込められてたし…免疫ねーんだよ、オレはっ!」
「悪いなんて言ってないよ」
するり、と雲雀は獄寺の頬を撫でた。
「隼人のそういうところ、可愛いと思うよ」
「〜〜〜〜っ!!」
「ヒバリっ!!」
その時、廊下の向こうから怒鳴り声が響いた。
二人が顔を向けると、部活に向かおうとしていた山本が鬼のような形相で駆けてくる。
「獄寺から離れろよっ!」
引き剥がそうと腕を伸ばした山本をかわし、雲雀は獄寺をぎゅうと抱え込んだ。
「なんで君に命令されなきゃならないのさ?」
「こら、触るなって!」
「ヤだよ。僕だって隼人のこと好きなのに」
「なっ…獄寺はオレのだっ!」
「何ソレ。いつ君のになったわけ?」
火花を散らしながら睨み合う二人。
と、山本が獄寺に眼を向けた。
「獄寺っ、なんでおとなしく抱き締められてんだよっ!オレが抱き締めたら怒るのにっ!」
「いや、なんでって言われても…」
そこで獄寺は気がついた。
山本は雲雀が女だということをまだ知らないのだ。
つまり、雲雀と獄寺のことを男女だと思っているわけで。
自分の彼女が他の男とひっついてたらそりゃ怒るだろう。
「恭弥、言ってもいいか?」
獄寺がそうっと雲雀に問いかけたけれど、雲雀はそれに構わず、ますます獄寺を抱き締める腕に力を込めた。
「僕たち、一緒にお風呂に入った仲なんだよね?」
そう言って、獄寺ににっこりと笑いかける。
確かに嘘ではない。銭湯の女湯で一緒に100まで数えた仲だ。
「なっ…、ご、ごく、ごくで…」
この世の終わりのような顔でショックを受けている山本。
獄寺は溜め息をついて、雲雀の体を押しのけた。
「恭弥、その辺にしとけよ」
「わかったよ。…面白かったのに」
「あのな、山本。こいつは…」
「きょーや!!」
獄寺の言葉を遮って、廊下に響いた声。
また厄介なのがきた、と獄寺は額を押さえた。
真っ青な顔をしたディーノが、廊下の向こうから駆けてくる。
が、三人の手前でディーノは足を絡ませて勢い良くすっ転んだ。
「ああもう、何やってるの?」
雲雀が差し出した手にすがるように掴まって、ディーノはその顔を見上げた。
「恭弥、今の話なんだよっ!?スモーキンボムと風呂ってどーいうことだ!?」
「………別にお風呂くらい」
「くらいじゃねーだろ!オレ以外のヤツに体見せるなんてそんなのっ…」
ディーノも山本も泣きそうな顔でそれぞれの恋人を見つめている。
雲雀と獄寺は顔を見合わせた。
「しゃーねえな」
「そうだね」
「いいか、よく聞けよ、お前ら。別に風呂くらいなんでもねーんだって」
「そうだよ、女同士なんだから」
「「………は?」」
ディーノと山本は揃って目を丸くし。
それから、ディーノは獄寺を、山本は雲雀をまじまじと見つめた。
「スモーキンボムが、女…?」
「ヒバリが、女…?」
「そう。だから、僕と隼人の仲を妬くなんて無意味なんだよ」
「そーそー。ま、さっきは恭弥が悪ノリしてからかいすぎたけど…」
「僕は本気だったよ。隼人を取られたの悔しいもの」
「だから話をややこしくするなっての…」
ディーノと山本は二人揃ってその場に力なくうな垂れた。
「なんだ……女同士ね、なるほどな……」
「そっか…それでなのな……」
雲雀と獄寺は顔を見合わせて苦笑する。
「ほら山本、部活行かなくていーのか?」
「ディーノ、いい加減に起き上がって」
雲雀とディーノと別れ、獄寺と山本はグラウンドへと歩いていく。
「獄寺、部活終わるまで待っててくれよな」
「ああ。つってもどこにいっかな…」
応接室はあの二人がイチャついているので入れない。
「シャマルんとこにでも行って時間つぶすか」
「え?まさか保健のおっさんも女…!?」
「んなわけあるか」
突っ込みつつ、獄寺は山本の足を蹴り飛ばした。
「いてて、だってさ……獄寺あのおっさんとも仲いーじゃん。だから心配っつうか…その…」
「シャマルはガキの頃からの知り合いだぜ。男も女も、そーいう対象じゃねーよ。向こうだってオレのことなんか丸っきりガキ扱いだしな」
「うん…」
うな垂れている山本の正面に回り込み、獄寺はその顔を見上げた。
「なんだよ?さっきから変だぞ、お前。恭弥のことならもうわかっただろ?」
「…ちょっとこっち」
山本は獄寺の腕を掴むと、空き教室へと引っ張り込んだ。
「おいっ…!?」
「獄寺…」
ぎゅうと抱き締められ、獄寺の顔が赤く染まる。
「コ、コラ!学校ではくっつくなって言っただろが!」
必死に押しのけようとするけれど、山本の腕はびくともしなかった。
「まさか女相手でも妬いたってんじゃねーだろーな?」
「んー…妬いたかも」
「はああ?バカか、テメーは」
「だって獄寺、イタリアから戻った後も全然触らせてくんねーし、付き合う前と態度変わんねーし…。なのにヒバリはあんなくっついて…一緒に風呂入ったとか言うし……。オレだって獄寺ともっとくっつきたいのにずりーのな」
「あのなあ、オレたち学校じゃ男同士だろが」
「うん。だから見えないとこではこーさせて」
「ったく…」
山本はがむしゃらな様子で、獄寺が息苦しくなるほど抱き締めてくる。
獄寺は苦笑して、その背中に腕を回した。
「部活、急がないとやべぇんじゃねーのか?」
「うん。もーちょっとだけ」
まるで甘えん坊の子どもみたいだ。獄寺は頬を緩めて、その背中を軽く叩いた。
「獄寺ぁ、お願いがあるんだけど聞いてくれる?」
「はいはい、しょーがねえな。言ってみろよ?」
雰囲気に流されたというか、つい、獄寺はそう返事をした。
すると、山本はしてやったりといった笑顔で口を開く。
「女の子のカッコした獄寺とデートしたいv」
そういえばシャマルの出番がないことに今頃気づいた。秘密知ってるであろう一人なのに。
次はデート。DHも出てきますよ。
(2007.9.24UP)
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