翌朝、ツナと守護者たちは帰国すべく集まっていた。

「ヒバリさん、遅いなあ…」
「オレ、呼んできます」

獄寺がなかなか姿を見せない雲雀の部屋へ行こうとすると、リボーンがそれを呼び止めた。

「持ってけ、ヒバリの部屋の鍵だ。寝てたら起こせ」
「あ、はい。じゃ、行ってきます」
「オレも行ってくる」
「え?あ、山本っ?」

獄寺の後を追って、山本も行ってしまった。

「まったくもう…」

山本の後ろ姿を眺めて、ツナは苦笑した。
昨日のパーティーの後から、山本は獄寺の傍をまとわりついて離れようとしないのだ。
さすがに寝室に引き上げる時には追い出されていたようだが。

「あっ、こらランボ!こんなとこで寝るなよ!」

先ほどまで起きていたのに、いつの間にかランボは絨毯の上でくぅくぅと寝息を立てている。
ツナが抱え上げようとした時、それより早くクロームの腕がランボの体を抱き上げた。

「んん〜〜〜…」

ランボは寝ぼけたままでもぞもぞどクロームの胸に顔を摺り寄せたが、その瞬間ものすごく不満そうな顔に変わる。

「ランボさん、獄寺のおっぱいの方がいいんだもんね!」

ピキ、とクロームの額に青筋が浮かんだ。
幻覚の蛇が現れ、にょろりとランボの首に巻きつく。

「ぴっ…ぴぎゃああー!」
「ちょっ…クロームさん、落ち着いて!子どものいうことだから!」
「軽く締めただけ…」

泣き出したランボをツナの手に預けると、クロームはふいっと背を向けて離れていってしまった。

「ほらランボ、泣き止めって。も〜…」

この場に山本がいなくて助かった、とツナは思った。
いたら、クロームだけでなく山本まで機嫌が悪くなっていただろう。

だって獄寺のおっぱいは山本のなんだから。










「待ってよ獄寺、オレも行くって〜」
「別にオレ一人でヘーキだっての」

山本は獄寺の隣に並ぶと、そこで不満げに獄寺の服装を見た。

「なんでまた男の格好してんの?」
「今さら女の格好なんてできっかよ」

どうせ他の守護者たちにも昨日のパーティーでばれてしまっているのだが、それでも女の格好というのは落ち着かない。

「それにこれから日本に戻んだぜ?誰に会うかわかんねーだろ」
「そりゃそーだけどさ…」
「なんだよ、女の格好じゃねえと嫌なのかよ?」

獄寺がギロリと睨むと、山本は慌てた様子で首を振る。

「そーじゃねーよ!オレ、獄寺なら格好なんて気にしないのな!」

そうして、山本はきゅっと獄寺の指先を掴んだ。

「オレ、お前とこーして一緒にいられるだけで嬉しーし」
「山本……お、オレだって、その…」

獄寺が顔を赤くしてごにょごにょしていると、「お、ここじゃね?」と山本が立ち止まった。

「とりあえずノックしてみっか」
「待て、お前は離れてろ。オレがノックすっから」

雲雀だって女だ。起き掛けに男の山本に訪れられては具合の悪いこともあるだろう。
獄寺は山本を離れさせると、ドアを二回ノックしてみた。

返事がない。まだ眠っているのだろうか。
獄寺はリボーンに貰った鍵をドアに差し込んだ。

「お前は見るなよっ」

離れて見守っている山本に釘を刺し、獄寺はそうっとドアを開けた。







「わああああッ!!」

突如響き渡った悲鳴に、雲雀は重たい目蓋を持ち上げた。
薄暗い部屋の中で上半身を起こし、開いているドアの方に顔を向ける。

獄寺が真っ赤な顔でそこに固まっていた。

「はやと…?どうしたの、そうぞうしい…」

目を擦りながら問いかけると、獄寺はふるふるとコチラを指差し。

「なっ、なんで、おま、跳ね馬が…っ!」
「………ああ」

雲雀は視線を落とし、まだ自分の隣で眠っている恋人を見た。

「だって昨夜はディーノと……」
「わーっ!言うな!言わなくていいっ!!」

獄寺はぶるぶると激しく首を振った。
シーツで隠してはいるものの、雲雀がその下に何も着ていないのは明らかなのだ。
いかにウブな獄寺といえど、言われずとも状況はわかっている。

「獄寺!?どーした、何があったんだ!?」
「ぎゃーーー!お前は見るんじゃねええー!!」

背後から入ってこようとした山本を慌てて追い出すと、獄寺は勢いよくドアを閉めた。

「獄寺!?獄寺ぁぁー!!」

どんどんとドアを叩く山本に構わず、獄寺は雲雀に顔を向ける。
だが、またすぐに慌てて逸らした。

「も、もう帰る時間だけど……お前、どーする?まだソイツ寝てるみてーだし…」
「そーだね…。僕は後から帰るよ。隼人は沢田たちと先に帰ってて」

そう言いながら、雲雀は幸せそうに眠るディーノの髪を撫でた。

「起きた時にいなくなってたらかわいそうだし。隼人も…山本に離してもらえないんじゃないの?」

笑いかけられ、獄寺はきょとんとした。

「なんで…」
「良かったじゃない、両思いで」
「お前、まさか昨日…っ」
「隼人が告白するの全部見てたよ」

あっさりと言われて、獄寺の顔が赤く染まった。

「じゃっ、じゃあな!また学校でな!」
「うん。山本と仲良くね」

慌てたように出て行く獄寺の背中に、雲雀はそう言葉を投げた。








それからしばらく、雲雀がベッドでディーノの寝顔を眺めていると。

「ん〜……きょうや……」

寝ぼけた様子で、ディーノが腕を伸ばしてきた。
その腕に腰を引き寄せられ、雲雀はディーノの腕の中にすっぽりと納まる。

「へへ。…おはよ」

ようやく目覚めたディーノが、間近で笑いかけた。

「おはよう」
「なんかまだ信じらんねーや。恭弥が女の子だったなんてよ…」
「抱いたくせに、まだそんなこと言うの?」
「幸せすぎっからさ。ついな」

失うことなんて、数え切れないほど経験してきたのだ。
大切な家族を、仲間を。
ボスになってから自分の手を赤く染めて必死の思いで突き進んできたけれど、それでも守れたものなどごく僅かに過ぎない。

「……ねえ」
「ん?」
「もう中学生だからとか言わないでね」
「わかってるさ。そんなもん関係なしに、お前はオレの恋人だ」

まっすぐに見つめ合い、どちらからともなく二人は唇を重ねた。













「なあ、ヒバリの部屋でなんかあったのか?」
「何もねえよっ!!気にすんじゃねえっ!!」
「えー?」

山本と一緒に戻りながら、獄寺は先ほどの部屋の中の光景を振り払おうと必死になっていた。

ありえねえだろ、あいつだってまだ中学生のくせに…!
そんでもってなんであいつはあんな普通なんだ!?普通オレが入ってきたらもっと慌てるだろ!?
跳ね馬のヤツいー歳だし、ぜってえアイツが強引に押し倒したんだ!
そーに決まってる!!!

「獄寺ー?ほんとに何も…」

と、獄寺は山本の方に向き直り、ガシッとその肩を掴んだ。

「山本!テメーはそーいう男じゃねーって信じてるからな!」
「は?」

訳がわからずに、首を傾げる山本だった。

 


ディノヒバと対照的に山獄は当分健全で行きたいと思います。
獄寺くんが妙に乙女設定なので。
問題は山本がいつまでガマンできるかだな…。
(2007.9.23UP)

 

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