「……何やってんだか」

階段の上の手すりから身を乗り出し、雲雀は獄寺と山本のやり取りに呆れ顔で息をついた。
こういうのをバカップルというんだろう。

「けど、ようやくくっついたね」

思わず雲雀の顔に笑みが浮かぶ。

自分と同じで、女であることを否定し続けてきた少女。
その彼女が女に戻った。
そろそろ、自分も逃げ続けてはいられないかもしれない。










パーティー会場の喧騒を抜け出して中庭に出ると、ひやりとした夜気が肌に心地よかった。

あんなに人の多いところにいるなんて耐えられない。
言葉もわからないのに、にやけた男たちがやたらと声をかけてくるし。
服の下に仕込んでいるトンファーで片っ端から咬み殺してやりたかったけれど、赤ん坊に「暴れるな」と釘を刺されていたのでどうにか踏みとどまった。

小さく息をついて、雲雀は石段に腰を下ろした。
真っ赤なロングドレスのスリットから覗く足を綺麗に組み合わせる。

イタリアでのパーティーだし、しばらく会っていない恋人に会えるのではないかと密かに期待していた。
けれど赤ん坊から聞いたところによると、仕事が立て込んでいてパーティーには間に合わないかもしれないという話。
もっとも、こんな格好をさせられているので、会えない方が助かるという気持ちもある。

女であることを隠すのもそろそろ限界かな、と思わないわけではない。
恋人同士で、相手はとっくに成人した大人。
男同士だろうと男女だろうと体の関係だってそう遠くなく出来てくるだろう。
今のところはどうにか逃げているけれど―――本気であの人に迫られた時、果たして自分は拒めるのか。
















「ボス、オレは車を車庫に入れてからいく。先に行っててくれ」
「ああ」

ロマーリオに促され、ディーノはボンゴレの屋敷前に乗り付けた愛車から降りた。

「中で迷子になるんじゃねーぜ」
「ったく、なるわけねーだろ。ガキの頃から何度も遊びに来た場所だぜ?」

ロマーリオの冗談を笑い飛ばしたディーノは、一人颯爽と屋敷の中へ入っていった。



それからわずか三分後

「あれ……ここどこだ……?」



ディーノは迷っていた。



パーティー会場にたどり着けずにさっきから同じところをぐるぐるぐるぐる。
そう、確かに幼い頃から何度も遊びに来た場所だが、遊びに来るたびに必ず迷子になっていたことを彼は失念していたのだ。

「参ったな……誰かいねーのか」

さ迷っているうちに、中庭の入り口へとたどり着いてしまった。

「こっちじゃねーよな…」

そう言ってきびすを返そうとしたところで、ずるりと足が滑る。

「おわっ!!?」

そのまま、ディーノは中庭へ降りる石段をごろごろと転がり落ちていった。




落ちるところまで落ちようとしていたディーノは、急に何かの力が加わってぴたりと停止した。

「あ…あれ?」

恐る恐る目を開けると、石段の途中で誰かが自分の体を抱きとめている。
ぴったりと密着し、抱き合うような体勢。
柔らかい体の感触と、甘い花の香りがディーノの鼻をくすぐった。

「すまん!!」

ばっ、と体を離し、ディーノは勢い良く頭を下げる。
見知らぬ女性に対して、なんてこと。

「…ほんとに、ドジなんだから」
「え…」

聞こえてきたのは、聞きなれた愛しい少年の声。
けれど顔を上げたディーノの目に映ったのは、学ランを着た少年ではなく、美しく着飾った女性だった。
真っ赤なロングドレスをまとい、ショートの黒髪には真紅のバラを飾っている。

「きょう…や…?」
「僕がわからないの?頭でも打った?」

そう言って、彼女は赤い唇にわずかに笑みを浮かべた。

「なんで…だって、そのカッコ…」

ディーノが呆然としていると、雲雀は小さく息をつき。

「ばれちゃったね」

そう言って、肩をすくめた。

「恭弥、いったいどういう…」
「見てのとおり。僕は女だよ」

固まったまま動かないディーノに、雲雀は顔を寄せて下から覗き込む。

「どうしたの?ショックで言葉も出ない?」
「ショックなわけ、ねーけど…びっくりして…」
「ごめんね」

くすくすと笑う雲雀に、ディーノはがっくりとうな垂れて。

「悪いと思ってねーだろ、恭弥。オレをからかってたのか…?」
「そういう気持ちもあったけど……女って隠したままでも好きでいてくれるのが嬉しかったから、ついね」

それに隼人のこともあるし、と思ったがそれは言わないでおいた。
獄寺も女であることをまだディーノは知らないのだ。

「なんだよ…。それで拒んでばっかだったのか」
「キスより先に進んだら女だってばれるからね」
「イヤだったわけじゃねーんだな?」
「………うん」

雲雀は小さく頷いて、ディーノの胸に体を寄せた。

「イヤだなんて一度も思ったことないよ。本当はもっと触れ合いたかったし、抱きしめて欲しかった。大好きだよ、ディーノ」
「恭弥……」

いつもよりも素直な恋人の態度に、ディーノの理性が揺らぐ。
男と思っていた今まででさえ、雲雀を抱きたいと思っていたのだ。
それが今、こうして美女の正体を現した雲雀が腕の中にいる。

「愛してる、恭弥」

こみ上げてくる愛しさを噛み締めつつ、ディーノは雲雀の耳元で囁いた。
雲雀はそっとその顔を見上げ、悪戯っぽい笑みを浮かべる。

「ねえディーノ、僕の部屋個室なんだけど、来る…?」

 


ようやくディーノにもカミングアウト。雲雀がツンからデレに変わりましたよ。
ていうか拒まれて手を出せずにいたディーノがどこまでも情けない…。

こんな終わり方ですが次の展開も健全ですから!申し訳ない…!
(2009.9.18UP)

 

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