「でっけーーー!」
「ここが、ボンゴレのアジト…」
「そーっすよ、歴史がある分建物自体は古いっすけどね」

イタリアのボンゴレ本部の前に立ち、ツナと守護者の面々は目の前にそびえる屋敷を見上げた。
圧倒されているツナや山本たちに比べて、来たことのある獄寺は一人平然としてる。

「さ、入りましょう。9代目にご挨拶しなくては!」
「う、うん。そーだね」








一週間前、並盛―――。

「イタリアぁ!?」
「そーだぞ。来週の便で行くからな」

いつも通りツナの部屋に集まっていたツナ、獄寺、山本の面々は、突然のリボーンの宣言に目を丸くした。

「小僧、オレたちもか?」
「ああ。守護者は全員だぞ。ファミリーの創立記念パーティーに招待されてんだからな」
「で、でもマフィアの本拠地なんだろ!?そんなとこ行きたくないよ!」

蒼くなって言ったツナだったが、「つべこべゆーな」とリボーンに銃を向けられて口をつぐんだ。

「ま、9代目からじきじきの招待でもあるしな。断るわけにはいかねーぞ」
「9代目の…」

ヴァリアー戦以来会っていない9代目の穏やかな相貌を思い出して、ツナの表情が和らいだ。
そうだ、マフィアの本拠地とはいえあの9代目が納めている地なのだ。

「一回くらいおめーたちも本部に行っといた方がいーからな。この機会に行っとけ」
「ところでリボーンさん、ボンゴレの創立記念ってことはかなりの規模っすよね?」
「ああ。同盟マフィアからもかなりの客を招待するからな。六百人はくだらねえぞ」
「うは、すげーなそりゃ」
「マフィアが…六百人……」

ツナの顔が見る見る蒼ざめた。

「へーきっすよ、10代目!そのくらいのパーティーうちの城でもよくやってました!」
「そりゃ獄寺くんからしたらそーだろうけど…」

とにかく、こうしてツナたちファミリーのイタリア行きが強制的に決定したのだった。









本部に入ると、すでにパーティーの準備でごった返していた。
ツナたちは9代目に挨拶をした後、それぞれ控え室に通される。

「んじゃ、パーティーに遅れないように正装しとけ。クローゼットに衣装は用意されてるからな」
「ええ?全員別の部屋なの!?」

ツナが不安そうに声を上げる。

「おめーたちは将来の幹部だからな。個室くらいは当然だ。着方がわからなかったらその辺のメイドを呼べ」












小一時間後、パーティー会場。

「ツナー!」

おろおろと会場をさ迷っていたツナは、聞こえてきた声に顔を明るくした。
山本が人ごみを掻き分けてこちらへ駆け寄ってくる。

「山本!よかった〜、誰も見つからなくてどーしようかと思ったよ!」
「オレもオレも!言葉わかんねーし参るのな!」
「うわー、山本スーツ似合うね。オレと似たようなデザインなのにすごい違いだよ」
「そーか?なんか慣れなくて変な感じすっけどな」

ツナは山本の姿を見つめて、感嘆の息をついた。
日本人にしては長身で、野球をしているせいで体つきもいい。
会場の女性たちがちらちらと山本を見ているのも無理は無かった。

「獄寺がいたら通訳になんのにな〜。どこにいんだろーな」
「そーだね、獄寺くんがいてくれたら…」

いつもは呼ばなくともツナを見つけて駆け寄ってくる獄寺なのに、今夜はまったく現れる気配がない。

「ガハハハハ!ランボさんケーキ食べるんだもんね!」
「ぬうう、極限言葉が通じんぞー!誰かボクシングを愛する者はおらんのかーーー!!」

聞こえてきた声に、ツナの顔が引きつった。

「ランボとお兄さん…わかりやすいなぁ、もう…」
「賑やかだよなー」
「オレ、ランボたちのとこ行ってくるよ。山本は獄寺くん探してあげて」
「ああ。じゃーな」










「ふう、参った〜…」

がしがしと頭をかきながら、山本は息をついた。

獄寺を探して歩いていたのに、いつの間にかセクシーな外人のおねーさんたちに囲まれていた。
なんだかやたらと腕を絡められたり耳に息を吹きかけられたりしたので、言葉はわからなかったが口説かれていたんだろう。
相手をする気はないので、「ソーリー、ソーリー」と笑顔で逃げ出してきたのだが。

「クラスの女子より厄介だな、ありゃ」

もちろん、山本だって健全な男子。
セクシー金髪美女に迫られて何も感じないわけではない。
けれど、自分が本当に欲しい相手はたった一人だから。

山本の脳裏に、愛しい相手の姿が浮かぶ。
学校にいる時の制服姿、勉強会の時の私服姿、そして―――海で出会った時の、ビキニ姿。

「はは、アレは夢だっての。なに思い出してんだオレ…」

けれど、夢と思うにはあの時の笑顔も腕を組んだ時に触れた胸の感触もあまりにも鮮明で。

例え男でも、それでも好きだと思っているはずなのに、無意識に『女だったらいい』と思う気持ちが自分の中にあるのだろうか。




と、賑やかなパーティー会場にひときわ大きな声が響いた。
おそらくイタリア語だろう、ぎゃあぎゃあと早口でまくし立てている。
意味はわからなくとも、なにやら穏やかじゃない雰囲気は感じられた。

ついそちらへ足を向けると、淡い緑のドレスを着た女の子がこちらに背を向けて立っている。
銀色の髪には、ドレスと同じ色のリボンが飾られていた。

どうやら少女は正面にいる男に対して喚いているらしい。
一方、男の方も少女に対して何か必死に語りかけている。
しつこいナンパで機嫌を損ねられでもしたのだろうか。

(女の子なのにすっげえ啖呵。獄寺みてー)

そんなことを思いながら山本がそれを眺めていると、男が顔色を変え、少女に向かって手を振り上げた。

「女の子相手に手ぇあげることないんじゃねーの?」

二人の間に割って入った山本は、振り下ろされた男の手首をすんでのところで掴んだ。
そのまま、山本は男を睨み上げる。
相手はどー見てもイタリア人だし、日本語がわかるはずもないのだけれど、山本の眼光に男の顔が白くなった。
山本が手を緩めると、男は逃げるように人ごみの向こうへと消えていってしまった。



「あー良かった〜、イタリア語でまくしたてられたらどーしようかと思った」

山本がほっと息をついた時。

「やまもと…」

背後から呼ばれた、自分の名前。
後ろにいるのは、先ほどの少女のはずなのに。

山本が驚いて顔を向けると、少女はしまったといった様子で慌てて口に手を当てる。
山本の目は、その顔に釘付けになった。
そこにいたのは、化粧もしてドレスアップしているけれど、自分が間違えるはずの無い相手だった。

「…ごくでら」

そうっと呼びかけると、ドレスのデザインのせいでむき出しなその肩がびくりと震える。

「獄寺、なんでそんなカッコしてんの?」

問いかけた次の瞬間、獄寺はくるりと身を翻して走り出した。

「え!?ちょっ、獄寺っ!?」






パーティー会場を抜け出して、獄寺は全速力で階段を駆け下りていく。

「獄寺、待てって!」

山本は呼びかけながら、その背中を追いかけた。
獄寺はけっして足は遅くないけれど、ハイヒールが走りにくいのか階段を下りきったところで追いついて、
山本はその腕を掴んだ。

「なあ、逃げなくてもいーだろ」
「…見るなッ!」

獄寺はぎゅうと瞳を閉じて、顔を俯けた。
頑ななまでのその態度に、山本は困惑気味に首をひねる。

「そんな隠さなくてもいーじゃん。そりゃ女装してるとこなんて見られたくねーだろーけどすっげ可愛いし似合ってるぜ?」

すると、獄寺はぶるぶると激しくかぶりを振る。

「……ちげぇよっ!」

獄寺は拳を握り、山本の胸を叩いた。
そのまま、山本の胸に顔を押し付ける。


「女装なんかじゃねーよ…!女なんだよ、オレはっ!」


叫ぶように告げられた真実が、山本の耳に響く。

「お前のせいだ、お前のせいでオレはどんどん女に戻ってく…!なんでお前のことなんか、こんなに好きなんだよ…!」

山本の手が、獄寺の両肩を掴んだ。

「獄寺…ほんとに?女の子で…オレのこと好きなの…?」

見下ろして問いかけると、獄寺は目に涙をためたまま、山本の顔を睨むように見上げる。

「これが女装に見えるってんなら目ぇおかしーぜ、お前」
「見えねえよ…だってこんなに可愛いんだもんな…」

そう言ってから、山本はぎゅうと獄寺の細い体を抱きしめた。

「夢じゃねーのな、これ」
「おい、苦し…」
「男同士じゃなければ告白できんのに、っていつも思ってた。例え男でも獄寺が好きで……ほんとは、オレん中じゃ男でもどーでもいいくらいになってたんだ。けど、同じ男から告白されたって獄寺が受け入れてくれるとは思えなかったし……。だからずっと、気持ちを隠してたんだ……」
「やま…もと…?」
「獄寺が好きだよ。男でも、女でも」
「だから女だって言ってんじゃねーか。疑う気か?」
「いーや、信じてるぜ。だってすっげー気持ちいーのな、獄寺のおっぱい
「んなっ…!!」
「獄寺これ何カップ?D?E?もしかしてF?」

湯気が出そうなほど、獄寺の顔が上気する。

「離せーーー!このエロ野球バカーーーっ!!」
「いってえ!獄寺、ハイヒールは反則だって!」
「うっせえ!果てろー!!」

 


ようやく山本にカミングアウト。山本にはハッキリ言わないと伝わりませんでした。
(2009.9.16UP)

 

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