10年後にえがく夢
「そういえば山本、一年の女の子に告白されたんだって?」
ツナの家で勉強会をしている時、ふいにツナがそんなことを言い出した。
別に告白されるのなんてオレにとっては珍しいことでもないんだけど、どうやら相手の女の子が一年でダントツに人気のある子だったらしく、校内でちょっとした話題になっている。
「あー…まーな」
「で、どーしたの?」
「断った」
「また?山本って誰とも付き合わないんだね。やっぱ野球が忙しいから?」
「んー…」
オレはちらりと向かいに座っている獄寺を見やるけれど、獄寺は興味なさそうにタバコをふかしている。
「まあ、そんなとこ」
そう答えて、曖昧に笑った。
「喉渇いたね。なんか飲み物取ってくるよ」
そう言ってツナが下に下りてしまった隙に、オレは獄寺の方に顔を向けて。
「獄寺は、誰かと付き合うとかねーの?」
「あ?」
と、それまで黙っていた獄寺がようやく口を開いた。
「興味ねーな。オレは10代目の右腕になれればいい」
「そればっかだなー、獄寺は」
「野球バカのてめーに言われたくねーよ」
「でも…そっか。…良かった」
「?」
獄寺を好きだと自覚したのはいつからだったろう。
最初はただの好奇心だったはずなのに、気づけばその一挙一動を目で追っていて。
オレに笑いかけてくれた時は、嬉しくって。
肩を組むたびに、もっと抱きしめたいとか、離したくないとか。
そんなことを、思うようになって。
けど、獄寺はたぶん男になんか興味ないだろうし。
オレと一緒にいてくれんのも、同じ守護者として、仲間としてって気持ちが強いんだろうし。
だから、いまだに告白できずにいる。
今は興味ないとか言ってる獄寺も、いつかは恋人を作って結婚とかするんだろーか。
オレはそん時になっても気持ちを言えずに、それを見てるだけなんだろーか。
「ガハハハハ!ランボさんだぞ〜!!」
静寂を破るように、突然窓からランボが飛び込んできた。
ランボはオレたちの勉強道具を広げたテーブルの上に着地し、泥だらけの足でこともあろうに獄寺の教科書を踏んづける。
途端、獄寺がランボの首を掴み上げた。
「殺されてーか、アホ牛!!」
「ぐぴゃああ!!」
「お、おいおい獄寺、落ち着けって!」
なだめるけれど獄寺の怒りが治まることはなく、獄寺がガツンとランボの頭を殴ると、ランボは激しく泣き出してもこもこした髪の毛からバズーカを取り出した。
「うああああん!!」
泣きながらバズーカの引き金を引く。
けれどそれと同時に獄寺がランボから手を離し、ランボの体が落下した。
そしてバズーカはと言えば―――その口が、オレに向けられた。
ドガァァァン!!!
「………あれ?」
見覚えの無い部屋のソファに座って、オレはきょとんとした。
少し考えて、ランボのバズーカに撃たれたらしいと理解する。
ということは、ここは10年後のオレの……家?
部屋の中をくるりと見回すと、白い壁に白いカーテン、洒落たデザインのソファやローテーブル。
おそらくマンションだとは思うが、どうもオレの家と言う感じじゃない。
ていうかオレ、こんなにセンス良くない。
じゃあここは、誰の家だ?
その時、何かが膝に触れてびくりとした。見下ろしたオレの体が、固まる。
「とーちゃ」
ソファの上でまだ2歳くらいの子どもが、大きな目でオレを見上げていた。
黒い髪に黒い瞳で、おそらく男の子。その顔は、奇妙なほどオレに似ていた。
ちょっと待て、なんで子どもがいんだよ!?
だってオレは獄寺が好きなのに!!
それってつまり、オレはいつか獄寺を諦めて、女と結婚するってことなんだろうか……。
オレが額を押さえてうな垂れていると、ぺちぺちと小さな手がオレの膝を叩く。
「とーちゃ?いちゃいの?」
泣きそうな顔でそんなことを訊かれるので、なんだか本当に泣きたくなった。
けれど、息子の前であんまり心配させるわけにもいかないな、と思い直す。
「いいや、痛くないぜ。サンキュな」
そう言って、その体を抱え上げた。
息子は途端に安心したように笑顔になる。その姿が可愛らしくて胸が痛んだ。
獄寺以外を本気で好きになることなんてないと、そう思っているのに。
けど、知らない女が産んだオレの子どものことを可愛いと感じてしまう。
「……ごめんな、一瞬でもいらねぇなんて思って」
ぎゅう、とその体を胸に抱きしめた。
獄寺以外との未来なんて、すべて否定してしまいたかったのに。
けれど、この子どもまで否定することなんて出来そうにない。
と、その時、腕の中で息子がバタバタともがいた。
「とーちゃ、くるちい!」
「っと、わりい」
「ぷあっ!」
腕の力を緩めると、息子は思いっきり息を吐いた。
よほど苦しかったのか眉間に皺を寄せていて、小さな足でオレの体を蹴り飛ばす。
「とーちゃのバカー!はてろぉーーー!」
「…………は?」
なんか今、すっげえ聞き慣れた口癖が聞こえたんだけど。
まあでも、父親の友人の口癖がうつることだって……ていうか子どもが「果てろ」とか言うんじゃありません。
ここは親としてしつけとくべきだろう、なんて一丁前に親らしいことを思って、息子の頭に手を置く。
「こーら、そーいう言葉使ってるととーちゃんの友だちみたいになっちまうからなー」
すると、息子はぷーいと顔を逸らし。
「いいのー。かーちゃだっていつもゆってゆもん」
「……へ?」
「果てろ」が口癖ってどんな女だよ!
オレの奥さん何者!?
………獄寺じゃ、あるまいし。
あ、またへこんできた。
やっぱオレ、獄寺がいいなぁ。会いたいよ、獄寺。
10年後の獄寺ってどんなだろ。男でも、獄寺ならキレイだろーな。
まさか、獄寺も女と結婚してたりすんのかな……。
こうしてガキまでいるオレには何も言う権利ないってわかってっけど……。
「ただいまー」
その時、ドアの開く音がして、少しハスキーな女性の声が聞こえてきた。
「かーちゃ!」
ぱっと顔を上げ、息子が嬉しそうな声を上げる。
え!?ちょっと待て!オレの奥さん帰ってきたのか!?
立ち上がろうと腰を浮かしかける。けれど、そこで躊躇って動きを止めた。
会ってしまったら、本当にこの未来が現実のものになってしまいそうな気がする。
今のオレの獄寺への思いすらも、現実の前に崩れてしまうのだろうか。
オレがその場から動けずにいると、玄関からのその足音は徐々に近づいてきて。
そうして、リビングのドアが向こう側から―――。
―――って、あ、あれ?
ドアが開いたかと思った瞬間、オレは元のツナの部屋に戻っていた。
どうやら5分経ったらしい。
正面にいる獄寺が、オレの姿を見て「お帰り」と小さく呟く。
「…ただいま」
そういえば、入れ替わりで10年後のオレがここに来てたんだよな。
「獄寺さあ、10年後のオレとなんか話した?」
結局オレの奥さんのことよくわかんなかったし、獄寺が10年後のオレとどういうやり取りをしたのかすっげえ気になる。 余計なこと言ってねーだろな、未来のオレ。
「別に……懐かしいな、つって笑ってたぜ。人のこと小せえだのバカにしやがって」
「そんだけ?」
「ああ…。あ、そういや妙なこと言ってたな。その口癖は教育に悪いからやめろ、真似して困る、とか…」
口癖と言われて、先ほどの息子の発言を思い出した。
でもあれは、オレの奥さんの口癖がうつったんだろ?獄寺は関係ねーはず…。
「なあ、獄寺」
「なんだよ?」
「オレの奥さんになる気ない?」
なんとなく頭に浮かんだ言葉を、思いつくままにそう言った。
すると、ボッと獄寺の顔が一気に赤く染まる。
てっきり怒り出すと思っていたオレは、呆気にとられてぽかんとした。
あれ?なんかコレ、脈アリ?
あーもう男同士でもいいや。獄寺、オレの奥さんになってください。
10年後、あの可愛い息子と3人で幸せな家庭を築く相手は、獄寺じゃないとイヤなんです。
男同士でどうやって子どもできんのか謎だけど。
でもきっと、愛があれば大丈夫じゃね?
とりあえず。
まずは、好きだって伝えてみよーか?
これからしばらく経って山本が告白して、獄寺くんは女だと言うことをバラすワケですよ。 てか、こんだけヒント出てんのに獄寺くん=女の子だとは思いもしない山本。
なのに獄寺くんと家庭を築く気マンマンってどうなの。
山もっちゃんは愛さえあれば大丈夫と本気で思ってます。うん、愛さえあれば性別なんてね!(そう言いつつここは女体部屋)
(2007.11.1UP)
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