会いたくて

 

「ふーっ、やーっと着いたぜ」

列車を降り、獄寺と雲雀は辺りを見回した。

「この辺はもうキャバッローネのシマなの?」
「そーだぜ。跳ね馬の屋敷があるのはもうちょい先だけど…」

そう言うと、獄寺は通行人を掴まえて何やら話しかけだした。
イタリア語なので雲雀にはその内容はわからない。

一人手持ち無沙汰にしていた雲雀は、自分を見つめる複数の視線に気がついた。
道行く人々が、みな一様に雲雀のことをチラチラと眺めていく。

日本人だから珍しいのは当然かもしれないが―――と、雲雀は顔をしかめた。
暴れだしてしまおうかとも思ったが、ディーノが大切にしている住民たちと思うとそれも躊躇われる。

「お待たせ、恭弥!……ナニ眉間に皺よせてんだ?」

ようやく戻ってきた獄寺が、不機嫌そうな雲雀に首を傾げる。
その様子を見ながら、人々はひそひそと囁きあった。

「……何でもないよ。場所はわかった?」
「ああ。この住所ならそう遠くないってさ」

そう言って、獄寺は屋敷の住所を書いた紙をしまう。

「じゃ、行こーぜ。跳ね馬のヤツ、急に行ったらビックリすんだろーな!」
「うん…」

















「ボス、報告書だ」
「ああ。置いといてくれ」

ロマーリオが机の上に分厚い報告書の束を置く。
と、机の上の電話が鳴り響き、ディーノは別件の書類に目を落としたまま受話器を取った。

「オレだ。―――それで、うちの被害は?……わかった、そのまま続けてくれ」

電話を切り、ディーノは読み終わった書類を目の前のロマーリオに差し出した。

「この話、進めておいてくれ」
「了解、ボス」

と、ロマーリオが腕時計に目を落とす。

「もう昼だな。食事はどうする?」
「ここで食う。なんかつまめる物でも用意してくれ」
「わかった」

ロマーリオが出て行ってしまうと、ディーノは小さく息をついた。

「はーーーっ…」

今抱えている仕事がもう少し片付けば、何日か余裕ができる。
そうしたら、即行で飛行機に飛び乗って日本へ行こう。
そうして―――。

「恭弥……会いてーなあ」

しばらく会っていない恋人の姿を思い浮かべ、ディーノは頬を緩めた。

「最近時間取れねーから、怒ってっかもなー…」



「ディーノぉ!!遊んでーーーっ!!」
「わっ!?」

ふいにドアが開いて、近所の子どもたちが飛び込んできた。

「なんだなんだお前ら!」
「遊んでよー!最近全然遊んでくんないじゃん!」

そう言って、彼らはディーノの腕を引っ張る。

「あのなー、オレは今遊んでる場合じゃ…」

言いかけたディーノだったが、彼らの顔を見て思い出した。

先月の火災で古い木造アパートが全焼した。
それは以前から古くて危ないと言われていた場所で、対策が必要だと考えていた矢先だった。
この子たちは、そのアパートに住んでいた子どもたちだ。

「……ったく、しょーがねーな」

ディーノはぐしゃりと髪をかきまわすと、ネクタイを外した。

「よっし、外行くか!」













「お、見えてきた。アレだぜ」

獄寺が指差した先には、大きくそびえる屋敷が見えている。

「あそこに、ディーノが…」

しばらく会っていない恋人の顔を思い浮かべ、雲雀の鼓動が早まった。
忙しいあの人は自分を見て驚くだろうか、怒るだろうか。





二人が屋敷に近づいた時、塀を越えて二人の方へとボールが飛んできた。
雲雀がそれを片手で受け止めると、その直後、門の向こうから幼い子どもたちが駆けてくる。

「このガキどものボールみたいだな。けどなんで屋敷の中から…」

と、雲雀の顔を見上げた子どもたちが目を見開き。

「「「キョーヤ!!」」」

いっせいに雲雀を指差してそう叫んだ。

「…僕?」

イタリア語で何か喚きながら、子どもたちはキョーヤキョーヤと雲雀の名前を繰り返している。

「写真で見たのと同じ顔だっつってるぜ」
「写真?」
「跳ね馬がお前の写真見せてまわってんだろーな」
「もう、勝手にそんなこと……」

雲雀は呆れたように息をついた。
その直後、子どもたちを追いかけて門の中から飛び出してきたのは、
シャツの袖をまくって子どもたち同様泥んこになっているディーノ。

「おーーーい、ボールあったかー?」

そこにいる雲雀と獄寺を見て、ディーノの動きが止まった。

「きょう、や…?」
「…やあ、久しぶり」

言いながらも、雲雀はディーノの全身をくまなく眺め。

「僕をほったらかしておいて子どもとボール遊びだなんて、いい度胸だね」

殺気を放ちながら、トンファーを構えた。

「ちょ、待て!落ち着け!話を聞けって、きょう…」

ディーノの言葉が終わるのを待たず、雲雀はディーノ目掛けて踏み込んだ。
トンファーの一撃がディーノの体を吹き飛ばす。

「「「ディーノ!!!」」」

子どもたちが声を上げて、ディーノに駆け寄ろうとする。
それを獄寺が「心配ねえから見てろ」とイタリア語で制した。

このくらいはディーノと雲雀にとっていつものことだ。
雲雀が部下の居ない時のディーノを本気で殴るわけはないし、ディーノだって一撃でやられるほどヤワではない。

「いつつ…」

殴られた腹を擦りつつ、ディーノは体を起こした。
そこにトンファーを構えたままの雲雀が歩み寄ってくる。
先ほどまでの殺気はおさまり、拗ねた子どものような表情でディーノを睨んでいた。

「ごめんな」

ディーノは腕を伸ばして、雲雀の頭を撫でた。
雲雀は視線を伏せて唇を噛む。

「あなたは………僕に会いたくなかったの?」
「そんなわけねえだろ。ずっと恭弥のこと考えてたし、すげえ会いたかった。会いにきてくれて嬉しいぜ」
「………ほんとに?」
「ああ」

雲雀が顔を上げると、ディーノは穏やかな表情で手を広げる。
雲雀はその腕の中に飛び込んだ。







「なかなおりしたの?」
「もうキョーヤ、ディーノのこと怒らない?」
「ああ、もう大丈夫だ」

心配そうな子どもたちに、獄寺は笑いをこぼしながらそう答えた。

「ねえねえ、キョーヤはディーノのお嫁さんになりに来てくれたんでしょ?」
「だってディーノ、キョーヤのこと大好きだもん!」
「キョーヤのこと話す時、すっごい嬉しそうなんだよ!」

だから僕たちもキョーヤのこと大好き!と、子どもたちは揃って笑顔を見せた。
その言葉に、獄寺は思わず苦笑をもらす。
子どもに懐かれて囲まれている雲雀なんて想像もつかないが、跳ね馬の影響ならそういうこともあるかもしれない。
それに、ああ見えて雲雀は小さい物が好きだ。

獄寺はその場にしゃがみ込んで、子どもたちの頭を撫でた。

「恭弥のこと、よろしくな」


















その日の夜。

「終わったーーー!恭弥ーーー!」

書斎から飛び出して、ディーノは隣の部屋に駆け込んだ。
そうして、そこでディーノの仕事が終わるのを待っていた雲雀に抱きつく。

「ワオ、もう終わったの?ロマーリオの話だと半日はかかるって…」
「恭弥が待ってると思うだけではかどった!」
「……バカ」

呆れ顔で息をついてから、雲雀はディーノの頬に手を当てる。

「お疲れさま」
「ん」

ディーノは嬉しそうに笑い、雲雀の手に自分の手を重ねた。
そうして、そのままその唇にキスをする。
深く口付けたままその腰に腕を回し、ディーノは雲雀の体を抱えあげた。
ベッドに運ばれる途中で、雲雀がディーノの顔を見上げる。

「疲れてるなら休んだ方がいいんじゃないの?」
「んー、恭弥を抱く方が先」
「………ほんとにバカ」
「だってほんとにすっげえ会いたかったんだぜ。恭弥も……オレに会いたかったっての、こういうことだろ?」

ディーノが低い声音で問いかけると、雲雀は赤くなりながらも無言で小さく頷いた。

「愛してるぜ、恭弥」
「……うん、僕も」

久しぶりの恋人の腕の中で、雲雀は幸せそうに瞳を閉じた。

 


シマで恭弥の写真を見せびらかしてるディーノさんが書きたかっただけです(え)
きっと今頃シマのみんなは「ディーノのお嫁さんが来たぞ!」って大騒ぎしてますよ。翌朝、ディーノのお嫁さんを一目見ようと屋敷に詰め掛けますよ。
恭弥はシマの住民全員にディーノのお嫁さんとして温かく迎えられればいい。

ちなみに、恭弥を連れてきた隼人は山本が心配するので先に帰りました。
(2008.2.25UP)

 

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